The Jesus and Mary Chain「Psychocandy」レビュー 奇跡の黄金比の発明

「僕たちはどん底にいたかもしれない。でも星を見上げていたんだ」-ジム・リード

1985年。フィードバック・ノイズと60年代ポップスを連想させる甘いメロディの黄金比をThe Jesus and Mary Chainが発見したのは喧噪の中だった。客に背を向けて行ったライブは暴動を呼ぶこともあり、イギリスのある音楽プレスは彼らを「第二のピストルズ」だと言った。

初めて聴いたときはとにかくこのテンションが好きだった。エコーのかかった気怠いボーカルとその奥に秘めた感情を爆発させるみたいな金切りノイズ。内気な人間が抱いている混沌そのものの具現化のような気がして一気に惹かれた。後の「Darklands」「Automatic」「Honey’s Dead」の方が全然完成されているアルバムだけど、「Psychocandy」が80年代やシューゲイザーの名盤として必ず挙がるほどのアルバムなのは、このアルバムで起こった化学反応があまりに奇跡的だったからだと思う。

「Psychocandy」というタイトルはドラッグを彷彿とさせる。ただこのアルバムで実際に歌われているのはドラッグ自体というよりもドラッグのように「悪いと分かっていても断ち切れない恋人との依存関係」であったり、倦怠感とそれと表裏一体の攻撃性だった。英国内で熱狂的に迎え入れられたのも分かる気がする。




 

正直に言って、退屈で適当に思えてしまう曲もある。特に後半に行くに連れ失速していく感が否めない。引き出しの少なさが顕著に出ているせいなのかもしれないが、「Just Like Honey」「The Hardest Walk」「Some Candy Talking」「Never Understand」のような曲が随所にちりばめられているから聴いてられるような感じがする。

でもそれでもこの愛すべき原石のようなアルバムは、完成されていないからこその説得力を持っている。ここで鳴っている荒々しいフィードバックノイズと渦巻いている甘美な幻想は人間の抱いている感情そのもののように感じる。誰かがいずれノイズと甘いポップスの黄金比を見つけたとしても、ここにはThe Jesus and Mary Chainにしか成し遂げられなった発明以上の何かがきっとあると感じた。

 

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