櫻坂46「偶然の答え」MV 歌詞 考察 自分のその秘密に気付かされる


2ndシングル「BAN」に収録されているカップリング曲「偶然の答え」。

「あの頃の私は、自分じゃない誰かになりたかった」というセリフから始まり、女の子に恋した女の子の物語がMVでは描かれている。

もちろん、この曲は恋愛曲であることには間違いないのだけれど、誰かに拒絶されたことが原因で自分を受け入れられなくなってしまったことがある人には響くものがあるMVなんじゃないかと思う。

「自分じゃない誰かになりたい」

MVで、主人公は「自分じゃない誰かになりたい」という気持ちを強く抱き、最終的には役者を目指し、上京することを決意する。

でも、そんな「自分以外の何者かになりたい」という気持ちは、大好きな人に自分を受け入れてもらえなかったからという、悲しい理由に裏打ちされているものであることが序盤で分かる。

冒頭の告白シーンでは、「好きなの」と声を震わせて想いを伝えるが、相手は複雑な表情をしたまま無言で電車に乗り込み、行ってしまう。

そこから曲の開始と共に告白までの回想シーンへと戻り、教室での2人の様子が描かれ、「もしかしたら彼女は自分と同じ気持ちなんじゃないか」と、希望的観測に夏鈴ちゃんが心を弾ませていく過程が分かるのがより心苦しくなる。

MVの物語は悲しいけど、歌詞自体は恋愛に浮かれているような内容なので、そのギャップも切ない。

踊っているメンバーの表情も物語の展開に合わせて、初めは笑顔で踊っていたがだんだん笑顔が消えていくのが印象的だ。

ちなみに振り付けも、小林由依さんと渡邉理佐さんの振りが登場人物の心情を表現しているという設定になっている(FC動画のMV観賞会で言及)。そのため、教室で一緒に笑い合っている場面ではその2人も手を取ったり明るい表情で動きをシンクロさせているので、この時はまだお互いの気持ちが同じ方向を向いていることを表しているんじゃないかと思った。



好きになってしまった瞬間

サビ前で教室で夏鈴とリコが手を重ねる瞬間があり、この瞬間、夏鈴ちゃんは自分の気持ちに気づいてしまったんだと思う。

その後の1番のサビでは、笑顔で踊っているシーンの合間に何人かのメンバーの曇った表情の別カットが挟まれ、2人の気持ちが今後すれ違っていくことが暗示されているかのように見える。

1番では誰かを好きになってワクワクしたり、思い上がって浮かれたりする楽しい側面が中心に描かれるが、2番以降は現実とのギャップに苦しくなる側面が描かれているという構成になっているのではないかと思った。

開いていく距離感

2番の始めでは告白シーンの続きが描かれる。音声は入っていないが夏鈴ちゃんが「リコ」と返事を求めるように名前を呼びかけると、それを拒絶するかのようにリコは「ごめん」と言って、足早に電車に乗り込んでしまう。

ホームに取り残される夏鈴ちゃんと、その向かい側で踊っているメンバー。1番では笑顔で踊っていたメンバーも、その展開に合わせるように、表情から笑顔が消えている。

そして、「自分ではない誰かになりたい」という思いを強くした夏鈴ちゃんは、役者の養成所を調べ、東京へ行くことを決意する。

お互いが別々の進路に向かって歩き出している中、2人は校内ですれ違うも、言葉は交わさず、振り向くタイミングが違って目を合わせることなく通り過ぎてしまうのも印象的なシーンだった。

また、ラスサビ後の夏鈴ちゃんが泣き出してしまうシーンも、実際に芝居をしている感覚というよりは、「本当にリコとの距離感が離れていくことが辛くて泣いてしまった」ということを後から夏鈴ちゃんが言っていて、かなりリアルに見ている人の心に刺さるカットになっている。



結末

上京する前に、ショッピングモールの近くで会ったリコに話しかけられ「東京に行くんだって?」と聞かれる。「役者を目指そうと思って」と夏鈴ちゃんは答えるが、「どうして?」という問いには答えられず、「元気でね」とだけ言葉を残す。

本当は夏鈴ちゃんの中で明確に「自分じゃない誰かになりたかったから」という答えがあるはずだが、そう思わせた原因がリコである以上、何も言うことができないのだ。

また、その時リコが連れている犬を可愛がるシーンでは、リコに直接伝えられなかった感情をその犬を通して伝えているようにも見え、グッと来てしまう。

ラストはスペイン坂のそばで撮影されていて、その後再会できたのかどうかは視聴者が好きに解釈できるようになっている。歌詞では再会できているのと、最後に階段を降りているので、個人的には再会できたんじゃないかと思う。

全体の感想

誰かを好きでいる自分に気が付いて、どうしようもなく楽しくなる気持ちと、それと表裏一体の苦しさが同時に押し寄せてくるような気持ちになるMVだと思った。

また、「自分じゃない誰か」というありもしない幻想を追い求め自分を奮い立たせる姿は、学生が夢を見るモチベーションとしてはあまりにもネガティブだけど、それでも心を動かされてしまう。

「なぜ恋をしてこなかったんだろう?」もそうだけど、この曲がただの恋愛曲に終わらないのは、広く捉えると自分の生き方と向き合えるような曲になっているからなんじゃないかと思う。

もちろん、アイドルが同性愛をテーマにしたMVを制作したこと自体にもきっと意味があるのだけど、個人的にはそこに当てはまる人に限らず、観た人が自分自身の物語と向き合えるMVになっているのが良いなと思った。




画像引用元:櫻坂公式HP 「偶然の答え」MV

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