Lou ReedとMetallicaの異色コラボ、アルバム「Lulu」についての話

ファンから最低だと言われ、David Bowieに最高傑作と言われた作品

Luluは2011年にリリースされたLou Reedの21作目のオリジナルアルバムで、Lou Reedの遺作となったアルバム。

メタリカとルー・リードという異質のコラボで知られる作品で、David Bowieがルーの奥さん、ローリー・アンダーソンにこんなことを言ったことでも知られている。

いいかい、これはルーの最も素晴らしい作品だ。最高傑作だ。待っててごらん。『Berlin』みたいになるから。理解されるのには時間がかかる」と。

この作品はLou Reedにしてもメタリカにしても異質で、どちらのファンをも困惑させる作品だろう。自分はヴェルヴェッツのファンとして初めて聴いたとき、本当に良さが分からない作品だと思ったのをよく覚えてる。メタリカのいかにもな高速ギターリフとルーの朗読のような歌い方はただのミスマッチにしか思えず、ただただ理解不能だった。聴く人によって意見はかなり分かれていたみたいだけど、世論は結構こんな感じでPitchforkもこのアルバムには1.0という点数をつけていた。

今日はそんな「Lulu」を何の気なしに聴き直してみた。そしてその感想を書く前にまずはこのアルバムのあまりにも特異な制作経緯についてまず書いていこうと思う。

制作経緯

まず「Lulu」というアルバムは19世紀ドイツの劇作家、フランク・ヴェーデキントの戯曲『地霊』『パンドラの箱』が原作になった『LULU』というオペラからきている。このオペラは貧民街出身のルルという売春婦の栄華からどん底までを描いたもので、この辺のテーマは「Berlin」とも共通しているのかもしれない。オペラの中で印象的なのは嫉妬に狂ったルルの結婚相手シェーン博士がルルにピストルで自殺するように迫る場面。そこでルルは言うのだ「誰かが私のために自殺したって、私の価値は下がったりしない」と。そしてそのピストルでシェーン博士を射殺してしまう。

ルー・リードはそんな「LULU」を現代版でやるために過去にもコラボした経験のある演出家のロバート・ウィルソンとアイディアを練っていた。そしてそんなときに2009年のロックの殿堂25周年記念式典のライブでジャムセッションする事になったメタリカに共作を持ち掛け、ルー・リードが温めていたアイディアをメタリカに提案したところ、メタリカ側が快諾し、このアルバム製作に至ったという流れがある。つまりほぼ即興に近い形でレコーディングは行われたのだ。
ルー・リードが話を持ちかけた時点で歌詞は大方書きあがっていた。そしてそれを元にメタリカが曲のアイディアを膨らませる形でレコーディングがスタートした。



久々に聴いてみて

まず、上でも述べたように自分はヴェルヴェッツが大好きだし、ルーのソロもかなり聴きこんでいる。反対にメタリカは聴いたことはあるけどあまり詳しくない。そんな立場で聴いてることを初めに書いておく。

1曲目「Brandenburg Gate」、邪悪なギターとルーのあまりにも解り合えなそうな朗読ボーカル。この調子は終始続いていくが、Louの文学的でウィットに富んだ世界観をメタリカが丁寧に咀嚼して演奏をしているのが良く分かる。そしてかつてはチープとも思えたメタリカのサウンドと全く溶け合えていないルーのボーカルが織り成す異次元の音楽世界が初め聴いたときほど意味不明なものではないことを知る。とはいえ、キャッチーさとはかけ離れたルーのスポークンワーズボーカルとメタリカの代名詞でもあるスラッシュメタルなサウンドが聴けないという時点でメタリカファンから酷評をくらったのは改めて納得してしまった。

そして「Iced Honey」のようなまとまっていて聴きやすい曲もあり、続くルルのばらばらの精神状態を歌った「Cheat On Me」はミドルテンポで敢えて抑えているような演奏がぐっとくる。

しかし「Little Dog」は退屈すぎた。カントリーチックなギターを基軸に時々ノイズが入るという構成なんだけど、8分がこんなに長く感じたことはない。続く重厚でキャッチーなギターリフが特徴的な「Dragon」は個人的にはあんまり好きじゃないけど、ギターリフがこんなに耳に残りやすいのにルーのメロディーとも言い難いようなボーカルが乗ってることに改めて面白いなぁと思った。悪夢みたいなカオス感がある。

そして特筆すべきは20分近くあるラスト「Junior Dad」。この曲の印象は初めて聴いたときと全然違うものになった。クリーンギターのアルペジオから始まるイントロ。そして歪んだ重厚なギター。劇の終幕に、そしてルーの生涯の最後に悪くない曲なのかもしれないと思った。初めて聴いたときは終盤の弦楽器の音をだらだらと流されるのがひたすら退屈だったけど、このアルバムを物語として1から改めて聴いたとき、これは無音のエンドロールに近い、作品の余韻に浸るための余白のように感じて何とも言えない居心地の良さを覚えた。

色んな背景を知らないとこのアルバムは面白くない、と言う人もいる。即興のセッションでできたこと、「LULU」というオペラのこと…。でも、それはどうなんだろう。特に音楽に関してはサウンドそのものではなく、背景を知ってからでないと楽しめない作品というのは褒められたものではないような気がする。このアルバムは賛否両論あって当然の作品だし、直感的に感じたままの感想を持っているのが面白い作品だと思う。ルーリード過激派だった自分は、とにかく「理解不能」という「Lulu」のイメージがちょっとだけ変わったのが良い体験だった。最後の最後までロックを創造しようとしたルーリードの一番の問題作であり、挑戦作でもあるこのアルバムを是非一度手に取ってみて聴いて欲しい。

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