Vampire Weekend「Father of the Bride」アルバムレビュー

Vampire Weekend「Father of the Bride」アルバムレビュー

死をテーマにした前作から6年、現代における生き方の指針の一つを提示したVampire Weekendの名盤!

6年ぶりに発売されたVampire Weekendの4作目のスタジオアルバム「Father of the Bride」。

前作「Modern Vampires of the City」ではソングライティングの要でもあったメンバー、ロスタム・バトマングリが脱退し、この6年の間はメンバーもソロ名義での活動が充実していた。エズラは休養期間の中で「なぜ自分が音楽が好きなのか気が付いた」と語っている。

ロスタムの脱退により「Father of the Bride」ではエズラが主にソングライティングを手掛けている。ただそれでもロスタムはプロデューサーとして参加し、何曲か曲を提供してる。

エズラ「最初のアルバムに収録されていた楽曲のほとんどが大学時代に作られたから、若者らしい雰囲気にあふれていた。2枚目と3枚目は、当初の目を見開くほど興奮した情熱が大幅に冷めた状態だ。学生時代よりも広い世界を見て、世の中のことを知れば知るほど意気消沈するわけだよ。でも、そういう時期はいつか終わりがくる。死を扱った歌に合わせて白黒のアルバムカバー(『モダン・ヴァンパイア〜』)を作ったあと、これ以上深い闇はないと気づいた。つまり、新作は”それでも人生は進む”というレコードなのさ」

アルバムのタイトル名

「Father of the Bride」は「花嫁の父」という1950年の映画のタイトルからつけられている。この映画は優秀なビジネスマンでもある非の打ち所がない好青年を結婚相手として連れてくる娘に対して複雑な感情を抱く父親を描いたコメディーだ。このアルバムでも結婚にまつわる3曲のデュエットソングが軸になっている。

この「花嫁の父」という言葉に対してエズラは「この言葉には聖書みたいなパワーがある」と語っている。きっとそのパワーはこのアルバムのジャケットにもある、人と人との結びつきについて思いを馳せずにはいられないような壮大で尊いものでもあり、「娘が結婚する」というどこまでも正しいはずの出来事に対して感じてしまう喪失感や憤り、どこまでも生々しくて大衆向けではない本音なのかもしれない。



 

死をテーマにした前作から「それでも人生は進む」という作品へ

Vampire Weekendはアルバムという単位を大切にするバンドだ。今回の曲数は18曲(+ボーナストラック3曲)だが、もともとは人間の染色体の本数に合わせた46曲入りのアルバムを作りたかったのだと言う。

サブスクリプションで音楽を聴くのが主流になった現代では、リードトラックだけつまみ食いのように聴かれて、残りは聴かれないということは多い。エズラはアルバムの曲数が増えれば後半の方の曲はきっと聴かれなくなってしまうだろうということも分かっていたが、それでもコアなファンはきっとアルバムという単位で聴いてくれるだろうという信頼感があったとライナーに掲載されていたインタビューでは話していた。

前作「Modern Vampire of the City」は抽象度が高く知性に富んだ詞が印象的な「死」をテーマにした作品だった。ただ暗いかと聞かれればそうではなく、むしろ風通しの良い明るさを保ちながらオルガンのサウンドや聖典の引用などで宗教や死を連想させるような、どこまでも不思議な色を持った作品だった。

個人的にはこの作品でどこか物語が完結してしまった感があった。人生の無意味さや理不尽に絶望するのではなく、向き合いながらもそこにユーモアを見つけるという生き方を一つの答えとして知ったように思ったからだ。

だからこそ今回の「Father of the Bride」は、不信感を抱いたり生々しい想像に苦しんだりしながらも人生は続いていくという完結されたものの先に続くレコードとしてすごく適切なもののように思う。そしてこれこそ時代の中で何を信じればいいのかわからず彷徨ってる人間が求めているアルバムなのだと確信した。

楽曲の変化

冒頭でも触れたが、このアルバムは前作でも作曲の要であったロスタム脱退によりエズラがソングライティングを手掛けている。Vampire Weekendの代名詞でもあったアフロビートを基調としたサウンドは少し残っているが以前より希薄になった印象だ。全体として70年代のフォークやカントリーのような仕上がりになっている楽曲が多い。

「Contra」のボーナストラック「Giant」では「The winning cause, it pleases God, the losing cause pleases me」という歌詞で締めくくられるが、エズラは「これはいつも共感してきたこと」であり、だからこそギターが使われなくなった現在にギターの魅力を感じるようになったと話している。

歌詞の内容

今作のリードトラック「Harmony Hall」は人種差別テーマにした曲だ。エズラがユダヤ人であることからも冒頭の「僕らは夏に誓いを立てた/そして今は12月の終わり/大みそかは僕が思うに降参するタイミングとしては完璧なんだ」という歌詞は、終戦と1946年12月31日によって署名された大統領宣言2714(第二次世界大戦におけるすべての敵対行為うの中止)のことだと考えられる。

そしてサビの部分にはこんな歌詞がある。

そしてハーモニー・ホールの石壁は証言する

悩める者は決して看過できないだろう

高潔だと信じていた場所に入り込んだ邪悪な蛇たちの姿を

これは排他的な為政者(トランプ政権?)に対するものでもあり、そんな性質を誰もが持っているのだという警鐘に聞こえる。声の大きな権力者の発言を「何も聞こえなくなるまで歌い続ける」とあり、そんな声を刻んだ「ハーモニー・ホールの石壁」がずっとそんな歴史を見てきたと証言するのだ。そしてアルバムの最後の曲では「Jerusalem, New York, Berlin」では「大量虐殺に駆り立てるあの感情は全ての人の心の中で脈打ってる」と締めくくられる。

まとめ

エズラは現在の世界の在り様を良いものだとはきっととらえていない。戦争や人種差別とウェディングソングの祝祭的ムードは一見相容れないものなのかもしれないが、根本の部分でそのようなものを引き起こすのはすぐ近くの人間に対して抱いてしまう不信感や不寛容だ。聴いた誰もがそのようなことに思いを馳せずにいられないこのアルバムは、そんな現代における生き方の指針を与えてくれたように思う。

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