何度目覚めても消えない喪失感 EDEN「no future」(2020) アルバムレビュー


アイルランド出身のアーティスト、EDENが2020年に発売した「no future」は痛々しいほど繊細なアルバムだ。「同じサウンドは二度作らない」と語るEDENの新作はFrank Oceanを彷彿とさせるようなアンビエントR&Bのような楽曲から、エレクトロニカとポップを心地良くミックスさせた楽曲が楽しめる。

歌詞は主に「喪失」をテーマにしたものが多い。映画「君の名は」のサンプリングを使用した楽曲もあり、「朝、目が覚めるとなぜか泣いている」(in)、「何かが消えてしまったという感覚だけが、目覚めてからも、長く、残る」(projector)などのセリフが引用されている。これらのセリフの引用からもこのアルバムは「何度目が覚めても消えない強い喪失感」を歌ったものが多いように思う。

オープニングトラック「good morning」は暗闇から抜け出せたような感動的な朝のようでもあり、無気力を超えた境地に見えた悲しい心象風景のようにも感じることができる曲だ。この曲も「no future」というタイトルとは正反対の壮大でなトラックにも聴こえるが、「逃げる気力もなかったんだ/16才の頃から明るい日をずっと夢見てた」という出だしから始まる美しく悲しい曲だ。

そこから「朝、目が覚めるとなぜか泣いている」とサンプリングされた短い「in」、そして「hertz」へといく流れは聴いている側をどんどん深みへと引き込み、眠っていた感情を引き出していくようだ。「hertz」はその流れのまま君の名をモチーフにした楽曲になっていて「空が燃え尽きるのが好きだ/吸い込んで僕たちを引き離してしまう」「持ち堪えている/”屋根が落ちるまで”あと何秒?」など荒廃した情景が浮かぶような歌詞が多い。

5曲目の「projector」はポップさとアンビエントさが上手く共存したアルバムの中でも印象的な1曲になっている。高音と低音のハモリが心地良く、宇宙の中を彷徨っているみたいな喪失感と感傷に溢れている。「何光年も先を生きている気分/頭の中の声が消えない」「もしこの感情に値段がつくなら、僕は壊れるまで何度も何度も払い続けるよ」という歌詞からも、喪失の部分に焦点を当てた曲と言えるかもしれない。「何かが消えてしまったという感覚だけが、目覚めてからも、長く、残る」のフレーズの引用も、この曲に悲しい影を落としている。

アルバムを締めくくる「untitled」はエレキギターのアルペジオを中心に展開していく優しい曲になっている。帰郷を思わせる歌詞と「なんて土曜の夜なんだ」と子供達のあどけない歌声が入っていて、自分の居場所へと帰ったことを祝福しているかのようだ。忘れられない喪失感と向き合いながら地に足をつけてなんとか現実と向き合おうとする終わり方は「no future」というタイトルながら、微かに見えたささやかな希望と明るさに溢れているのではないかと思った。