Pavement「Crooked Rain」アルバムレビュー

1994年に発売されたPavementの2ndアルバム「Crooked Rain」。

ローファイサウンドは健在だけど1stよりは整ったアルバムで、それでもやっぱりへろへろしてて頼りないのだけど、Pavementの最高傑作と言えるアルバムだろう。

このアルバムは「こういうコンセプトのアルバムです」と言い切ることはできない。一応ロックンロール批判的なフレーズはちょくちょく登場し、スマパンやストーン・テンプル・パイロッツは名指しで批判されるが、歌詞は読めば読むほど意味や整合性を求めるのが無意味なものであるとしか思えないし、とにかく蒸し暑い部屋で頭も働かないままただひたすらぼーっとしている時にかかっていたらいいな、という初めて聴いたときの印象が一番正しかったのかもしれないと今でも思う。

「Crooked Rain」は「In Utero」や「Siamese Dream」が発売された93年の翌年に発売された。ロック史にとって激動の時代だった90年代、自分はニルヴァーナもスマパンもSTPも好きだけど、それらのバンドとは相容れないPavementの熱量と冷笑との絶妙な距離感には特別な空気感を感じる。時折感じるロックに対する違和感(ドラッグや破滅することで神格化されることとか)を持ったまま音楽を聴いていいんだという気持ちになれるからなのかもしれない。とにかくその中でもこの「Crooked Rain」は疲れた時におすすめだ。R.E.Mのような文学性もなければ、余裕のない時には考えるだけでうんざりするような社会に対する反抗みたいなものものもない。



楽曲はマルクマスのポップセンスが奇跡的なまでに発揮されている。音のグレードが上がったとはいえ演奏はどこまでも不完全さが拭えないのに、その中で聴こえるメロディーがあまりにもキャッチーだから、小さい頃ゴミ置き場の中から使えそうなものを発見した時に感じたみたいなきらきらした気持ちになれる。

アルバムの中でもリードトラックの「Gold Soundz」はPitchforkの「The Top 200 Tracks of the 1990s」ではBeckの「Loser」やWeezerの「Say It Ain’t So」、Radioheadの「Paranoid Android」を抑えて1位に選ばれている。トップ10の2位にPulpの「Common People」、7位にNeutral Milk Hotelの「Holland, 1945」を入れて意地でもNirvanaを入れようとしないあたり、ちょっとあざとさを感じないわけでもないけど、最高の1曲であるという意見には完全に同意だ。

ラストを飾る名曲「Fillmore Jive」では凄まじい轟音の中で「I need to sleep, I need to sleep」と繰り返される。Fillmoreとは60年代から70年代にかけてアメリカで有名だったライブハウスのことで、「Fillmore East」などのように使われていたことから「Fillmore Jive」はロックなんてでたらめだと言っているのだ(Jiveはでたらめを意味する)。「ロックンロールの時代におやすみの挨拶を、だってもう誰も必要としていないんだから」、歌詞にも登場するパンクで溢れた街や長髪のロックスターを思い浮かべながら聴くと、異様に悲しくなる一節だ。

元のCDは12曲収録でここで終わっているけど、ボーナストラック37曲を追加した記念盤に入っている曲では「Strings Of Nashville」が個人的には一番のベストトラック。あとR.E.Mを批判した(マルクマス本人はR.E.Mを直接批判したわけではないと言っているらしい)「Unseen Power Of The Picket Fence」も歌詞がなんせ面白いのでよく聴いている。「権力を持ったものの愚行」ということで虐殺を行う南北戦争の描写とR.E.Mが並行して描かれているのだけど、R.E.Mに関しては「Time After Timeは一番嫌いな曲だ」とまで言われている。初期のR.E.Mには影響を受けているはずなので売れた後(権力を手にしたあと)が気に食わなかったらしい。



個人的には大衆ロックをこれだけ皮肉っておきながらも、だからといって「俺たちはあいつら違うんだぜ」と新しいロックアイコンを提示しようとする姿勢なんてさらさらないところにすごく惹かれる。自分は98年生まれなので90年代の音楽シーンをリアルタイムで体験することはできずPavementは後追いで知ったわけだけど、郊外で鳴らされる虚無感と脱力感溢れる音はメインストリームの音楽からはぐれた人間にとって最高に気持ちよくなれる音だといつも思う。

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