The Jesus and Mary Chain「Automatic」アルバムレビュー
大衆的であると同時に「生き残り」に対する強い意思表示でもある3作目「Automatic」。
前作同様ドラムマシーンを使用した軽快さとヘヴィーさを伴うJAMCの第2章!
トラックリスト
1. Here Comes Alice
2. Coast to Coast
3. Blues from a Gun
4. Between Planets
5. UV Ray
6. Her Way of Praying
7. Head On
8. Take It
9. Half Way to Crazy
10. Gimme Hell
ドラムマシーンを大胆に利用した3枚目
ボビー・ギレスピーが立ったままドラムを叩いた伝説の第1作目「Psychocandy」以降「Darklands」と「Automatic」はどちらもドラムマシーンを使って制作を行ったアルバムだ。
サウンドは前作「Darklands」よりも軽快さとヘヴィーさを伴うものに仕上がっている。サイコキャンディのような耳をつんざくフィードバックノイズではなく、パンクやハードロックのような馴染みのあるディストーションの歪みはかなり聴きやすい。ピクシーズもカバーしたヒットシングル「Head On」はジザメリ至上最もキャッチーな曲なんじゃないだろうか。
このアルバムは「Psychocandy」や「Darklands」そして次作「Honey’s Dead」と比べると幾分影が薄いように思う。個人的にも「ジザメリで一番どの作品が好きか」と聞かれたら絶対に「Darklands」を挙げるし、「Darklands」では気にならなかったのに、「Automatic」のドラムマシーンのサウンドはなぜかあまり好きになれない。他の楽器に対して音が抜けすぎていて逆に違和感を感じてしまう。
大衆を意識したサウンドへ
「Psychocandy」で鳴らされたフィードバックノイズは虚無感や倦怠感が裏打ちする凶暴な衝動のようなものだったが、「Automatic」で全編を通して鳴っているノイズは内省的なものではなく、野太くとっつきやすいものだ。そこからはどこか「大衆」や「外」へと意識を向けた音楽に変化したようにも思える。
ただ、彼らの持つポップなメロディーが正統的な味付けによって際立っているとも言えるかもしれない。聴きやすい音へと変化すると批判されてしまうものだけど、「自分自身」と向き合って完成された「Darklands」という作品を作った彼らが次に「外の世界」へと向かうことはもはや必然的なようにも思えてくる。
孤独感の消失
歌詞はドラッグをモチーフにしたものが多いが、以前のような疲労感や絶望感はあまりなく、荒廃した街の様子や、薬漬けになってしまった彼女のことなど、いわゆるロックスターが歌う内容になってしまったような印象がある。前2作がいわゆる恋人との依存関係や現実逃避の内容だったのに対して、今作はアウトロー的生活の危うさはあっても、どこか自立を感じさせるものだ。
まとめ
このアルバムの力強さ、芯の太さはかっこいい。だけどこれは前2作と比べて個人に寄り添うものというよりは大衆そのものに対して真摯な姿勢をとった音楽であるような気がする。その良し悪しはともかく、個人的にはそこがこの作品がそこまでピンとこない理由なのかもしれない。
でもこの作品は大衆的であると同時に彼らの生き残りに対する強い意思表示でもあると思う。そして次作「Honey’s Dead」がこれまでの3作の良いところを凝縮したような作品になっていることを考えると、JAMCは第2章に向けて大きな一歩を踏み出したように感じられる。