きのこ帝国「渦になる」(2012)アルバムレビュー

きのこ帝国「渦になる」

<収録楽曲>
1.WHIRLPOOL
2.退屈しのぎ
3.スクールフィクション
4.Girl Meets Number Girl
5.The Sea
6.夜が明けたら
7.足首

2012年に発売されたきのこ帝国の全国初の流通版「渦になる」

メジャーデビュー前のミニアルバムだが、どこか陰鬱な影を残しながらも優しく人の痛みに寄り添ってくれるようなこの作品はファンの中でも「最高傑作」との呼び声も高い。筆者自身もこの作品が一番聴き込んでいるし、どの曲も捨て曲なしの名盤と感じている。

激しいフィードバックノイズとキラキラしたリードギターが印象的な「WHIRLPOOL」(タイトルは渦巻きの意味)で幕を開け、「仰いだ青い空が青すぎて」と脱力的に繰り返される。「夜が明けたら」でも象徴的だが、このアルバムでは過去や現実に囚われている人間が空を見上げて圧倒され、生命のエネルギーのようなものを感じるという曲が多いように思う。

そしてそのまま2曲目「退屈しのぎ」へ。ベースとドラムだけをバックに「ゴミ箱みたいな部屋のなかで、時が過ぎるのをただただ待っている、それだけ」と気怠げに歌われ始まるこの曲だが、「静」と「動」のバランスが激しく、中盤の悲鳴のようなフィードバックノイズの轟音にはただただ痺れる。

そしてやっぱりこのアルバムの特筆すべき曲と言えば「夜が明けたら」だろう。まだ星が残っているような夜明けの空を想起させるクリーンなアルペジオだけで始まる、あまりにも悲しくて綺麗な一曲だ。


少し話は逸れてしまうが、筆者が2018年に発売されたアルバム「タイム・ラプス」のツアーに行った時にもこの曲を聞くことができた。そしてこの時「最近は髪も爪も切らず」という歌詞を「最近は髪も爪も切って」と変えて歌っていたのが印象的だった。これが今の「夜が明けたら」なんだと強く感じて、そしてどうしようもない寂しさを覚えた。この曲は自分の身なりも気にせず、散らかった部屋の中で無気力に閉じこもっている人間の曲だと思っていたからだ。その変化が良いことか悪いことはさておき、そのくらい、自分はこの曲に感情移入していたのだと思うし、それくらいのエネルギーを持った曲だったということを書いておきたい。

この曲は誰もが持っているであろう許せない自分の過去の過ちに嘆く主人公が空を見上げて「夜が明けたら許される気がして」と思う。そして「ほら夜明けだ」と夜明けを祝福するかのように終わっていくこの曲を聞くと、事態は何も良くなっていなくても、許せないまま生きていても良いのだという気持ちになれる。

きのこ帝国はメジャーデビュー後(猫とアレルギー以降)「渦になる」「eureka」のようなシューゲイザーに色濃く影響を受けたサウンドは影を潜めてしまった。もちろんそれ以降の曲も好きな曲がたくさんあるけど、個人的にはこのアルバムのような、人の醜い感情に寄り添ってそれをフィードバックノイズで爆発させてくれていた頃の楽曲が一番好きだったし思い入れがあると感じてしまうことが多い。10代の真っ暗な青春を過ごしていた時期に出会えて良かったなと心から思う。