櫻坂46「最終の地下鉄に乗って」 歌詞 意味 考察 単調な生活への絶望と希望

櫻坂46の1stシングル「Nobody’s fault」に収録された全7曲のうち一番好きな曲が「最終の地下鉄に乗って」だった。

色んなメンバーが改名前のインタビューで「新しいジャンルの楽曲にも挑戦していきたい」と言っていたが、このシングルのカップリング曲はそんな気持ちに応えるような楽曲が多く、特に新しさを感じたのがこの曲だった。

「Nobody’s fault」が再挑戦や決意表明を掲げた楽曲であるのに対し、「最終の地下鉄に乗って」はその裏側にあるような感情を歌った曲だと思う。

自分を鼓舞して奮い立たせることができるような日もあれば、自分の人生を振り返って急に不安に取り憑かれる日もある。「Nobody’s fault」が前者のような感情なら「最終の地下鉄に乗って」は後者のような心情を歌った楽曲であり、「Nobody’s fault」のようなエネルギーに満ち溢れた表題曲を掲げたシングルにこんな無気力な心情を歌った楽曲が収録されていることに凄く共感する。

それも、曲調は至って爽快で明るく、初めてラジオでオンエアされた時にこんな暗い歌詞の楽曲だと気付かないほどだった。歌詞に「絶望」を取り入れた時に学生の憂鬱に力強く寄り添うような楽曲が多かった欅坂の頃の楽曲を思い返しても、こんな爽やかに失望してる曲はなく、新しさという意味でも斬新に思えた。

作曲が「制服と太陽」「約束の卵」のaokadoということもあり、メロディーはもちろん綺麗だけどこの曲は歌詞も良い。

最終の地下鉄をいつも選んで乗って
ガランとしている車両に立ってると
本当に孤独になった気がして来る

人との関わりを避けるために自分から最終の地下鉄に乗っているにも関わらず、いざ周りに人がいないのを見ると「本当に孤独になった気がしてくる」と感じてしまう微妙な感覚に妙に共感してしまう。比喩的な表現だけど、1人になりたいのかそうでないのか自分でも分からないという感覚の喩えとして凄くしっくりきた。

景色のないトンネルは人生みたいで
騒々しい音を立てて過ぎるだけ
うっかり 下を向いてたら終点になる

あんまり目立たない部分だけどここも凄く好き。地下鉄という題材も真っ暗なトンネルがいつまでも終わらないという意味で、「先の見えなさ」としての例えになっているのが分かる。自分の単調な毎日と電車の車窓から見えたトンネルの真っ暗な景色を重ねて、ぼんやり物思いに沈んでいる様子が思い浮かぶ。

誰もいない世界へ行きたい そんなこと思っていた
あの頃の僕って病んでいたのかな
ひんやりしてるガラス窓に
気づけば おでこをつけてた
なぜ それでも人間(ひと)は我慢しながら 毎日生きているんだろう
僕にはそれが不思議だった
何が嫌ってわけじゃないけど
無理をして微笑むしあわせなんて要らない

「何が嫌ってわけじゃないけど」この曲の肝はこの部分に集約されていると思う。思春期的な錯覚ともとられてしまいそうな強い反抗心や疎外感でもなく、理由もなく時折感じてしまう孤独とか不安はきっと人を選ばず誰もが共感できる。

まだ知らない世界へ行きたい ぼんやりと思っていた
この世の中 昨日の繰り返しだ
ドキドキとする何かなんて
ないってわかってしまった
ねえ それでも生きなきゃいけないって 結構辛いことじゃないかな
僕にはそれが耐えられない
だけど今すぐ死んだりはしない
急がなくたってそのうちにみんな死ぬんだから

「だけど今すぐ死んだりはしない 急がなくたってそのうちにみんな死ぬんだから」、一見だらしないとかそんなテンションで生きていて良いのかと思ってしまうような歌詞だけど、爽やかな曲調がそんな無気力さを肯定してくれるように感じるのがグッとくる。このフレーズを聴いた時に、改名後の櫻坂46が欅坂の頃とは一味違ったアプローチで人の弱さに寄り添った楽曲を歌ってくれたことに1ファンとして嬉しくなった。




そしてこの曲の一番秀逸だと思ったところは終わり方にあって

これからの人生 期待なんかしてない

この曲はこのフレーズと優しいアコースティックギターのアルペジオのアウトロで幕を閉じる。

「これからの人生 期待なんかしてない」そのフレーズを爽やかに歌い上げることで「希望なんかなくても生きていてもいい」と自然と思えるところがこの曲の秀逸だと思ったところだった。

そしてそれだけじゃなくて、「期待なんかしてない」と言いながらも、心のどこかでは期待を抱かずにはいられない情けなささえも許してくれるようなそんな温かさがある。

武元唯衣「『期待してない』とか『毎日同じことの繰り返しでももう良いよ』って風になっちゃってる主人公がいたとして、でも明るい曲調でもあるし。本当は期待してないって言ってるけど期待したいっていうちょっとの気持ちがあるはずで。その期待したいとか本当は前を向きたい、本当はちょっと期待してるっていうそういう気持ちに向けて私たちはエールを送りたいっていう気持ちでやってます。」(2020年12月14日 Showroom)

楽曲の中で「単調な毎日に対する不安や絶望」というテーマに明確な答えが与えられるわけじゃないのに、ひたすら暗い感情に寄り添ってくれることで自然と希望を感じたような気持ちになれるのが押し付けがましくなくて心地良い。期待が持てなくても単調で何も変わらない毎日でも、別に今すぐ死ぬ必要もないから死なない。そんな生き方で別に良いと思わせてくれるこの曲は、自分の人生を肯定しきれない人にとってきっと特別な曲になるんじゃないかと思う。




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