櫻坂46 1stシングル「Nobody’s fault」全7曲レビュー 改名の決意表明と再挑戦

2020年12月9日に発売された櫻坂46 デビューシングル『Nobody’s fault』。

今回のシングルではセンターが二期生の森田ひかる、藤吉夏鈴、山﨑天の3人に分かれるという新体制をとっているため、センターごとのカラーも出やすく色んなタイプの楽曲が楽しめるという構成になっています。

今回はメッセージ性の強かった欅坂の楽曲からどんな風に進化し、どんなタイプの楽曲が収録されていてそこにどんなメッセージが込められているのかについて考察して全収録曲レビューしました。

1. Nobody’s fault

森田ひかるセンター、1stシングル表題曲。編曲は避雷針、世界には愛しかないと同じ野中“まさ”雄一。

大まかに言うと欅坂→櫻坂への改名と再挑戦への決意表明がダイレクトに反映された曲です。

サイレントマジョリティーが少女が意思を持って立ち上がる曲だとしたらNobody’s faultは大人になってからも過去と向き合いながら挑戦を続ける人の曲になっています。

ハンドクラップと瑞々しいギターが絡み合って始まるイントロやミドルテンポ+中音域のボーカルも楽曲のパワーを引き立てています。

ブラスアレンジもハードロックっぽいギターも今の音楽シーンを考えるとそんなに大衆受けする要素ではないのかもしれないですが、それでもこの曲は音が良いのとトータルとしてのバランスが絶妙なので古臭くなく、むしろ新しく聴こえます。

他にも、ブラスアレンジとロック色強い展開からエレクトロニックなイメージに一気に雰囲気が変わるアウトロがこれからの始まりを予感させるようで高揚するしかっこいいです。

ただ、とても感覚的な個人の感想を言うなら、それでもこの楽曲の第一印象が「良い曲」だと思えなかったのは歌詞のせいだと思います。

秋元康が作詞してる前提ですが、「この世界を変えようなんて自惚れてんじゃねえよ」という冒頭のフレーズを筆頭に、あまりにも時代錯誤に尖ってしまった感が否めないです。「決意表明」とか「黒い羊のアンサーソング」とか、「内向きの物語」として外向きに説明する為にこうなってしまったのかと思ってしまいます。

秋元康の感性が芸術家のものではなく、ビジネスマンとしてのソレであることは重々承知ですが、10年くらい前のAKBの命令口調の楽曲のような歌詞で「勝手に絶望してるのは信念が無いからだってもう気付け!」なんて言われても、今の10代の若者には響かないんじゃないかなと思います。メンバーのパフォーマンスと楽曲そのものは斬新なだけに少し勿体なく感じました。

2. なぜ恋をしてこなかったんだろう?

藤吉夏鈴センター曲。作曲は二人セゾンのSoichiroK・Nozomu.S

表面的に言えば「恋愛なんて」と馬鹿にしていた女の子に彼氏ができて「恋愛も悪くないじゃん」となる曲です。

もっと拡大解釈をすれば「幸せは参加すること」とあるように、外側で誰かの人生を見ているだけだった人間が自分が主体となる側になって、新しい景色が見えていくという内容にもなっています。

デビューカウントダウンライブで藤吉さんが「恋愛の歌詞に見えるけど、そうでない解釈を私は見つけたので、色んな解釈をして欲しい」と言っていたのも印象的でした。

キャッチーさ、とっつきやすさで言えばNobody’s faultよりこの曲だろうなという感じがします。MVの再生数も表題曲かつ何度も歌番組で披露しているNobody’s faultよりなぜ恋の方が現時点(2020年12月12日時点)でも50万回くらい多いです。

リア充(死語)を一歩引いた人たちが馬鹿にしていたようなちょっと前のムードから、冷めて尖ってる人たちの方がダサいと思われてしまうような雰囲気になりつつある今、こっちは「Nobody’s fault」と比べても時代の空気感には合っているのかもしれないと思いました。

特に「自分の意志を貫くこと」「流されないこと」を主題にしていた欅坂の楽曲を思うと、「案外皆が当たり前にやってるようなことも悪くないじゃん」となるのはその地続きな次の自然なステップのように思えます。欅坂の楽曲で言えば「アンビバレント」の一つのアンサーソング的な内容のような。

PVでも藤吉夏鈴の周りで中心に操り人形のように生きていたメンバーたちが、人生を謳歌するように軽快に踊る彼女につられて、どんどん生気を取り戻していくかのような演出が印象的です。特にCメロの後半では、メンバー1人1人にスポットライトが当たって「幸せは参加すること」というフレーズを皮切りに一気に桜の花びらが舞い、全員に照明が当たります。

この曲のどこか不気味なところは一貫して主人公は「恋愛」に浮かれているのであって彼氏に夢中になっているわけではないというところではないんですよね。ただ「彼氏がいる」という状態が多くの女性が考える幸せの象徴だから描かれているというだけにすぎなくて、肝心の彼に関する描写は一回も出てきません。だからこそ拡大解釈ができる曲になっています。




3. 半信半疑

山﨑天センター曲。作曲はこんな整列を誰がさせるのか?の春行

「なぜ恋をしてこなかったんだろう?」から一転、恋愛に対して臆病になってしまう気持ちを歌った楽曲で、概念としての恋愛の楽しさを歌った楽曲が「なぜ恋をしてこなかったんだろう?」なら、リアルな負の側面を歌ったのが「半信半疑」になっています。

「興味がない」のではなく本心は「傷つくのが怖い」というところにあるというのよくある話とも言えますが、それだけ普遍的な感情を歌っているので共感されやすい内容になっています。この曲も他の楽曲の中でも目立って異色な感じです。

自分でも自分の気持ちがよく分からないからこそ、「興味がない」と言いながら「ホントの気持ちを教えてちょうだい」と言ったり、色んな感情を行ったり来たりしているのも「恋愛に翻弄されている感」が出ています。

歌詞から浮かぶ強気でませた少女像はセンターの三人の中でも山﨑天のイメージにぴったりです。

楽曲も90年代のロック歌謡テイストになっていて、思いっきり歪んだギターが主導するイントロとAメロで小気味良く鳴るテロテロしたギターが心地良いです。

4. Plastic Regret

藤吉夏鈴センター曲。恋愛の終わりを歌った曲です。

作曲がベーシストの方ということもあって、イントロや間奏で聴こえるスラップベースのフレーズが終始かっこいいと思いました。

楽曲内で多く登場するプラスチックという言葉は終盤で出てくる鋼と対比させて「弱すぎず強すぎないもの」の例えとして使われています。

「プラスチックの後悔」というタイトルも、別れをヒステリックに悲しんでいるわけではないのに、喪失感が尾を引いてしまう心情を表現しているように捉えられます。

「もうこれ以上頑張れないPlastic」「背中向けて嫌いになれたら楽だけどつまらないかも…」という歌詞が象徴的で、心の中の余裕と限界が垣間見えるバランスが絶妙な曲です。

5. 最終の地下鉄に乗って

森田ひかるセンター曲。パフォーマンスがあまりインパクトがないので印象が薄いけど音源では一番好きな曲です。

フォークソングみたいな優しいギターから始まる終始爽やかな曲調と単調な毎日に絶望する歌詞があまりにも対照的で、今までにない新しさに満ち溢れています。

この曲を取り巻くのは決意表明や再挑戦のような前向きな感情の裏側にある虚無感や喪失感であり、「Nobody’s fault」のようなメッセージ性の強い表題曲が掲げられている中にこういう楽曲が収録されているのに凄く共感します。

前半では散々言った歌詞も、この曲では良い味を出しています。

最終の地下鉄をいつも選んで乗って

ガランとしている車両に立っていると

本当に孤独になった気がしてくる

まだ知らない世界へ行きたい ぼんやりと思っていた

この世の中 昨日の繰り返しだ

ドキドキとする何かなんてないって分かってしまった

ねえそれでも生きなきゃいけないって結構辛いことじゃないかな

僕にはそれが耐えられない

だけど今すぐ死んだりはしない

急がなくたってそのうちにみんな死ぬんだから

人との関わりを避けたくなったり、自分の人生を思い返して不安になったりすることは誰もが日常の中で時々ふっと襲われる感情であり、そんな感情に優しく寄り添ってくれる歌詞が印象的です。

そして最後は「これからの人生期待なんかしてない」というフレーズで幕を閉じ、「希望がないまま生きていても良い」と思わせてくれる終わり方も秀逸で心に残ります。

6. Buddies

山﨑天センター曲。

すぐに歌えるようなシンプルなサビが印象的で、壮大でライブ感のある一曲です。

「台風一過」的な情景が思い浮かぶ歌詞は改名を乗り越えて見えた明るい心象風景を見せてくれるようで、ファンとしても清々しい気持ちをメンバーと共有しているような一体感があります。

天ちゃんの若さというか、周りを巻き込んで明るくできるようなオーラを生かすことができる曲です。




7. ブルームーンキス

森田ひかるセンター曲。

幻想的でドラマチックな夜をイメージさせるイントロのストリングスがマッチしすぎていて、一気に気分が高揚します。

ドラスティックなイントロ、サビとは対照的に、キックとギターだけ、キックとベースのスライドをフックに展開していくAメロBメロ。

セリフは賛否両論あるみたいですが、無音の静寂から唐突にCm→Dmに転調してキャッチーなサビへいくのも斬新で癖になります。個人的には、サビの唐突な転調がキスしてその場の雰囲気が一気に変わったのが伝わってくるみたいで面白いと思いました。

欅坂の時からライブも「一つの芝居を見ているみたい」と表現されることが多かったですが、この曲も聞いているだけで本当に戯曲のように感じられます。実際にダンスの振りもそういうペアになって踊る箇所があるのもあって、社交界みたいな上品なのに妖艶な空気感があると思いました。ただ、一つ微妙だと思ったところは複雑かつ音数の少ないAメロで秋元康の作詞の良くないところが際立ってるとは思いました。特に2番は言葉が嵌ってないような感じがします。作詞は康じゃなくて良いです(断言)

まとめ

コンセプトが統一されているわけではなく、センターごとに何となく楽曲のカラーがあったり、「なぜ恋をしてこなかったんだろう?」→「半信半疑」、「Nobody’s fault」→「最終の地下鉄に乗って」など、片方の側面だけでなくその裏側にあるような感情も描かれている構成が印象的で、何回も聴きながら楽しむことができると思いました。

メンバーも楽曲について「最初に聴いた時と今とでは全く印象が違う」と言っていたので、きっとパフォーマンスや振りからももっと楽曲の意味を考察したり、また別の新しい捉え方ができるようになるのも楽しめるのかなと思います。

方向性やグループらしさ的なものがまだ明確ではない分、既存の枠に囚われない曲もたくさん収録されていたので、これからもそのような枠組みに囚われず今までにない色んな種類の楽曲に挑戦してくれるのが見れたら嬉しいです。