森鴎外「舞姫」のあらすじ感想。「豊太郎はクズ」で終わらせては勿体ない

国語の教科書にほぼ必ずと言っていい程載っている森鴎外の「舞姫」。

とても平たく言うと「仕事か恋愛か」を迫られる話であり、最終的に主人公は仕事を選んで精神的に弱っている妊娠した恋人を捨ててしまう…という話です。

一般的には「主人公の豊太郎がクズすぎる」と言われることの多いこの話ですが、本当にそうなのでしょうか。今回は舞姫の時代背景や物語のテーマについて深掘り考察して紹介していきたいと思います。

筆者個人としての感想も載せてるので是非合わせて参考にしてみてください。

舞姫のあらすじ

舞姫はドイツから日本へと帰国する豊太郎が、自身のドイツでの出来事を船の中で回想しながら綴るという形式で始まります。

登場人物と相関図は以下のようになっています。

舞姫の登場人物と相関図

船の中での回想

豊太郎はドイツから日本へと帰国しようとしている船の中にいました。

そこで1人悔恨の念に苦しみ、自分の身に何があったのかを綴ろうとします。

成績優秀だった豊太郎

豊太郎は幼い頃から厳しい教育を受け、父親を早くに亡くしていましたが、それでも学問に関しては非常に優秀でした。

東京大学予備門に通った時も、大学法学部に入った後も、いつも成績は首位に記されていました。

そして西洋で官庁の仕事をするよう命令を受けて、豊太郎は立身出世のためにベルリンへと向かうことになります。

ベルリンへと到着

初めてベルリンの地を訪れた豊太郎は人々の服装や建物、全てが新鮮で心を打たれます。

そして日本の官庁から命じられた仕事の合間にフンボルト大学(いわゆるベルリン大学)で政治学の勉強をするなど、勉学に励みながら過ごします。

豊太郎の心境の変化

そうして3年ほど仕事と勉学に励みながら過ごしていた豊太郎ですが、自由な大学の雰囲気に触れたこともあり、次第に今までの自分の生き方に疑問を感じるようになります。

「母親は私を生きた辞書にし、官長は私を生きた法律にしようとしたのではないか」そんなことを思い始め、今までいかに自分が受動的で機械的な生き方をしていたのかを思うと心が不穏になってくるのでした。

そしてそんな心境の変化によって、豊太郎は法律の講義ではなく、文学や歴史に興味を持ち始めるようになります。

また、勉学に励んでばかりで他の留学生たちと付き合おうとしない豊太郎は周囲から孤立していくのでした。

エリスとの出会い

ある日の夕暮れ時に、豊太郎はクロステル街の寺院の前で16,7歳の泣いている少女・エリスを見つけます。

泣いている理由を豊太郎が聞くと、父親が亡くなったにもかかわらずお金がなくて葬儀代が出せないのだと言います。

豊太郎は自分の時計を外してエリスにあげることにしました。

そしてその日から、豊太郎とエリスは頻繁に会うようになります。

2人の関係は、貧困のため本も読めなかったエリスに本を貸してあげたりするような、師弟関係のような付き合いでした。

官長に告げ口され、仕事をクビになる

そんな純粋な関係を続けていた2人でしたが、ある日、同邦人が豊太郎が舞姫と交際しているということを官長に告げ口してしまいます。

元々学問の道を逸れ始めていた豊太郎を良く思っていなかった官長は、官職を罷免し解雇しました。

今すぐ帰国すれば旅費は出せるが、もう政府の援助を受けることはできないとのことで、豊太郎は1週間猶予をもらい、その間に決断することにします。

エリスはこれを聞いてひどく悲しみ、自分の母が豊太郎を嫌うことを避けるために母には内緒にして欲しいと言いました。

また、悲しい知らせが重なり、豊太郎の母が亡くなったことを知らせる手紙も豊太郎の元へと届きます。

そしてそんな時に一緒にいてくれたエリスに対する感情は、どんどん特別なものへと変化していくのでした。



エリスとの暮らし

豊太郎が決断を迫られている時に、友人でもあり天方伯爵の秘書官でもある相沢謙吉の紹介で、新聞社の通信員としての仕事に就くことになりました。

そして、エリスと家で母親と3人で暮らし始めます。

暮らしは以前よりも細々としたものでしたが、2人で収入を合わせてなんとか暮らしていた生活は「苦しい中にも楽しい月日」だったと振り返っています。

そんな中でエリスは豊太郎との子供を授かるのでした。

天方伯爵からの呼び出し

ある日、豊太郎は相沢謙吉から「天方伯爵が会いたがっている」という知らせを受け取ります。

豊太郎が相沢と天方伯爵に会いに行くと、ドイツ語の翻訳の仕事をして欲しいと言われます。

しかし、相沢の真意は天方伯爵の秘書官として豊太郎を再就職させることでした。

そして相沢は信用を回復するためにもエリスとは別れるべきだと言います。

エリスのとこが大切にも関わらず、自分の将来を思って提案をしてくれた友人にノーということができず、豊太郎はエリスと別れることを約束してしまうのでした。

ロシア出張

ある日、豊太郎は天方伯爵からロシアに出張へ行くからついてきて欲しいと言われます。

そして通訳としての仕事を期待以上にこなした豊太郎は、一度失った信頼を少しずつ取り戻していきます。

ロシアにいる間もエリスは毎日のように豊太郎に手紙を送っていました。

ちょうど元旦の朝、ベルリンへと帰ってきた豊太郎はエリスと再会します。

そしてエリスは豊太郎に「よく帰ってきてくださいました。あなたが帰ってこなかったら、きっと私の命は途絶えてしまうでしょうに」と泣きながら言うのでした。

日本への帰国

数日後、豊太郎は天方伯爵から夕食に誘われます。

そして一緒に日本へ帰国しないかと言われるのでした。

大臣の言葉を受けて、もしこのチャンスを断ったらもう名誉挽回はできないと考え、この誘いを承諾してしまいます。

その後、エリスとそのお腹の子供を見捨てることに苦悩し、歩くのも困難なほど思い詰めながらなんとか家に帰ります。

家についてからエリスに「どうしたの」と聞かれますが、膝は震え、声は出ず、答えることができないまま倒れてしまうのでした。

数週間後、豊太郎が目を覚ますとエリスの様子がおかしいことに気がつきます。

ひどく痩せて、目は血走り、頬はこけ落ちていました。

後から聞くと、豊太郎が意識を失っている間にエリスは相沢から豊太郎が日本への帰国を承諾したことを聞かされ、「豊太郎さんは私を騙していたのか」と発狂して倒れてしまったのだそうです。

目を覚ました後も豊太郎の名前を罵ったり、物を投げたり、布団を噛んだりと、医師によると過激な心労によって「パラノイア」という病気になってしまったのです。

豊太郎は回復し、エリスの母になけなしのお金と子供のことを託して帰国することにします。

相沢のことをこの世では得難いほど良い友人であるが、同時に少しだけ彼を憎む心が残ると最後に思うのでした。



舞姫のテーマ・主題は?

このお話のテーマは「近代人の自我の芽生と葛藤」というところにあります。

明治時代初期と言えば「富国強兵」「脱亜入欧」といったスローガンが流行し、ずっと鎖国していた日本が欧米に必死に追いつこうとしていた時代です。

とはいえ、江戸時代から続く「国家や家のため」といった考え方もまだまだ根強く残っていたのではないかと思います。

そんな中、ベルリンに行った豊太郎は個人主義的な文化の欧米に刺激を受けていました。

自分を機械的・受動的な人間だと揶揄していたことからも、そんな豊太郎がエリスと出会って、様々な幸せを感じるも、封建的な考え方の呪縛から解放されることはなかった、という悲劇的な話になっています。

そして何より、厳しい教育でしつけてきた母親も亡くなっている状況でさえ、自分自身でその道を選択してしまうというのがこの話の悲しい部分だと感じます。

舞姫の感想:豊太郎がクズだと言われるけど・・

とにかく豊太郎が最悪だと言われがちなこの話ですが、先ほどの章でも少し触れたように、当時の明治時代初期の日本は自分の人生よりも、仕事で自分の家族に恩返ししたり、国家に貢献することの重要性が今よりもずっと強かったのだと感じます。

また、豊太郎自身も女性とまだまだ遊びたいから逃げ出した、というわけではなく、豊太郎自身もエリスと一緒にいることに幸せを感じていて、倒れるくらい葛藤しつつも個人としての幸せを選択することを選べなかった、という結末なのです。

そこには保身ではなく周囲の人間の期待に応えるため、というニュアンスの方が強いと個人的には感じました。

優秀であるが故に多くの期待を背負ってしまったからこそ、自分の意志を尊重できなくなってしまったことの悲劇のようにも感じられます。

もちろん日本への帰国を承諾してしまう弱さは自業自得な面もあるのですが、豊太郎の立場上ついイエスと言ってしまったりする気持ちは分からなくはない部分もあるなと思いました。

その理由は3つあって、1つ目は豊太郎が既に一度告げ口をされて信頼を失っていることと、2つ目は母親の教育が厳しかったということ、3つ目は解雇された豊太郎にも仕事を紹介してくれた相沢にもこれ以上迷惑をかけたれないためです。

母親の教育に関しては、余は幼き頃より厳しき庭の訓へを受けしかひに(私は幼い頃から厳しい家庭教育を受けた甲斐あって)…」というところで描写があり、唯一の息子である豊太郎が成績優秀だったことが母親の心を慰めていたこと、周囲にもまたとない名誉だと言われていたことが分かります。

そんな環境で育った豊太郎は、やっぱり最後まで自分の意思よりも人からの期待に応えるための生き方を選択してしまったのではないでしょうか。

豊太郎が自分のことを「受動的で機械的な人間」だと思うシーンがありますが、欧米の自由な生き方に揺れながらも、結局そういう人間のままでしかなかったというオチともとれます。

あと、もう一点面白いと感じたのがドイツに来てから豊太郎の学ぶ学問が法律から文学や歴史へと変化したという部分です。

豊太郎にとって学問とは、母親や周囲の期待に応え、将来のためにやるだけのものでした。

それがドイツの文化に刺激され、政治や法律とは異なり仕事には生かせなくても、自分が興味のある文学や歴史を学ぶようになったのはドイツへ来て最初の自我の芽生のように感じました。

母親の死の要因は自殺?

母親が死んでしまった要因を「豊太郎が官職をクビになったことによる自殺」とする解釈もあるようです。

本文中でも母親から死の直前に手紙を受け取っていることが分かりますし、その手紙に関して「余は母の書中の言をここに反復するに堪へず、涙の迫り来て筆の運びを防ぐればなり」と書いています。

「思い出すだけで涙が出て文字が書けない程の内容の手紙」なので明言はされていないですが、遺書のような内容が綴られていた方がこの描写としっくりくると思います。

舞姫というタイトルに付けられた意味

タイトルの「舞姫」とは踊り子という意味で、ここでは主人公の恋人となったエリスのことを指します。

しかしもしかしたら、芽生え始めた自我と世間体の中で翻弄され、最終的には周囲に従うことを選ぶ主人公・豊太郎のことも含まれているのかもしれません。

豊太郎は父親を亡くし、一人っ子だった母親の期待の全てを背負っていました。

豊太郎は東京大学予備門に通っていた頃からも東大法学部に入ってからも常に成績優秀で、それが母を喜ばせていたことを自覚しています。

母親の教育が厳しかったことも描写されてるので、余計に母親の喜びと期待は大きかったのでしょう。

エリスと出会ったことで個人としての幸せを掴むことに揺れながらも、周囲の期待から抜け出せず最後まで翻弄され続けた豊太郎も、ある意味では「舞姫」だったと言えます。

まとめ

今回は舞姫のあらすじと読んだ感想、テーマやタイトルの意味に関する解説をまとめました。

高校生の頃に教科書で読んだ小説ですが、社会人になって仕事をするようになってから読むとまた感想が違ってくる話だと感じました。

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