The Smithsのおすすめ曲18選 社会に馴染めなかった全ての人へ
労働者階級の気弱な青年の気持ちを代弁し、カルト的な人気を誇るバンド「The Smiths」
ボーカルのモリッシーは、内省的でオスカーワイルドを好む文学好きの青年という一面もありますが、肉食批判・イギリス王室批判という過激な思想も持っていた人物としても知られています。
今回は弱気な若者や社会的な弱者の立場から歌い続けたThe Smithsのおすすめ曲を18曲紹介します。人生に疲れた時に是非聴いて欲しいバンドです。
Heaven Knows I’m Miserable Now
労働者階級の若者の視点に立ったThe Smithsの代表曲。
仕事を転々としながら悶々と生きている若者の姿は、時代を超えて弱者の立場の人間に突き刺さるものがあります。
以下のフレーズは有名なフレーズですね。
In my life
Why do I give valuable time
To people who don’t care if I live or die?
僕の人生において
僕が死のうが生きようが関係ない奴らに
この大切な時間をどうして捧げなきゃいけないんだ?
でも、そんなことを思いながらも、生活のためには働くしかない人生のことを「Heaven Knows I’m Miserable Now(神様は僕が今惨めなことを知っている)」と表現しています。
Please, Please, Let Me Get What I Want
シングルにこそなっておらず、曲の長さも2分弱と短いため比較的存在感が薄いですが、とにかく悲しく綺麗な1曲です。
欲しいと思ったものが一度も手に入らない人生を嘆いた内容になっています。
ジョニー・マーの繊細なギターの響きが悲しい歌詞をより引き立てているように感じます。
So for once in my life
Let me get what I want
Lord knows, it would be the first time
だから 人生にたった一度だけでいい
僕に欲しいものを手に入れさせて
神に誓ってもいい、これが初めてのお願いなんだ
There Is a Light That Never Goes Out
3rdアルバム「The Queen Is Dead」収録曲。
バンド解散から5年後の1992年にベストアルバムのリリースに合わせてシングルとしてリリースされています。
「決して消えない光がある」というタイトルとは裏腹に、死のうとするも思い止まったり、「今夜僕を連れ出して」とここではない場所を夢想する青年が描かれています。
「二階建てバスが僕らに衝突したって、君のそばで死ねるならなんて幸せな死に方なんだろう」というフレーズも有名です。
決して消えない光がある=「希望がある」とも取れますし、「誰も部屋から連れ出してくれなかったから部屋の明かりがずっと点いている」という意味にも解釈されています。
Bigmouth Strikes Again
3rdアルバム「The Queen Is Dead」収録のギターロック色強めの曲。
「ビッグマウスがまたやってくる」という意味のタイトルは、言わなくてもいいことをつい言ってしまう「ビッグマウス」でまた不必要に誰かを傷つけてしまった、と嘆いている主人公を指しています。
さらにはそんな自分の悲劇をジャンヌ・ダルクと重ね合わせて「今ならジャンヌ・ダルクの気持ちがわかる」と言います。
「お前の歯を全部叩き割りたい」「お前なんてベッドの中で殴られて当然なんだ」なんて言っておきながら悲観的になっている主人公は滑稽に見えますが、自分の悪い癖を自覚しながらも、コミュニケーションがうまく取れない自分を嘆いている姿は共感できる人も多いのではないでしょうか。
Cemetry Gates
3rdアルバム「The Queen Is Dead」収録
「よく晴れた日だから2人で幸せになれる場所に行こう 墓地の入り口で君と待ち合わせ」という出だしのフレーズから不思議な雰囲気を漂わせた曲になっています。
この曲では「君の傍にはキーツとイェーツ でも僕にはワイルドが付いている」と、モリッシーの文学的な好みが垣間見れ(モリッシーはオスカーワイルドを好んで読んでいた)、多くの作家の名前が登場します。
多くの作家の言葉を引用しながら話す2人の様子が描かれ、自分の言葉で話すことや詩を書くことの意味について描かれているように思います。
How Soon Is Now?
「How Soon Is Now?」は5枚目のシングルとして1984年8月にリリースされた「William, It Was Really Nothing」のカップリング曲ですが、人気の高い曲となったため、1985年1月に6枚目のシングルとして再びリリースされました。
「今っていつなのさ」と問いかけるタイトルは、「今になって(幸せは)やってくるよ」という気休めの言葉に対しての返答であり、希望のない未来を見据えている主人公の胸中が描かれています。
個人的に好きなのはこのフレーズです。
There’s a club, if you’d like to go
You could meet somebody who really loves you
So you go and you stand on your own, and you leave on your own
And you go home and you cry and you want to die君が行きたいんならクラブだってある
君を本当に愛してくれる誰かに出会うことができるだろう
行きなよ、そして一人ぼっちで立ち尽くし、一人ぼっちでクラブを後にして
家に帰り、泣いて、死にたくなるんだろ
This Charming Man
1983年にリリースされた2ndシングル「This Charming Man」
貧しい美少年が年上の魅力的な男性(This Charming Man)から援助を受け、惹かれていく過程を描いています。
男性が男性を養う姿が描かれているのは、男性的な自立やマッチョイズムに対する否定のようなものが表れているように思います。
ただ、そんな養われているうちに調子に乗り過ぎた少年は「指輪を返せ」と言われてしまい、結局見捨てられてしまうのも面白いポイントです。
I Know It’s Over
3rdアルバム「The Queen Is Dead」収録。
「おしまいだと分かっている 本当は始まってすらいないけど」と、自分の人生に対する絶望が描かれています。
冒頭の「ああ、お母さん、僕の頭に土が降ってくるんだ…」という歌詞は、土葬を彷彿とさせ、自分が死んでいくように感じている心情を表現しています。
モリッシーならではの陰鬱でナイーブな歌詞とキラキラとしたギターが優しく感じられ、暗い感情に支配された時に聴きたくなる1曲です。
What Difference Does It Make?
デビューアルバム「The Smiths」収録の3rdシングル。
「What Difference Does It Make?(それがどうしたって言うんだ?)」というタイトルのフレーズは、個人的な解釈ですが、自分の何かに失望されて居なくなってしまった恋人に対して向けられた言葉のように思います。
自分のダメなところを分かっていながらも、「それがどうしたんだ」と言い放つこの曲はモリッシーらしい自虐的な内容になっていると感じます。
William, It Was Really Nothing
オリジナルアルバムには未収録ですが、5枚目シングルとしてリリースされた曲です。
歌詞はウィリアムという人物に向けた言葉ですが「誰もが自分の人生を生きるべきなんだ」という言葉は、他の楽曲にも出てくる労働者階級的な視点を持ったフレーズのように感じられます。
また、「『私と結婚してくれない?よければ指輪も買ってちょうだいよ』そんな事を言いそうな太った女の子と、君はよく一緒にいられるもんだ」という歌詞からも、恋愛や人生における自由や多様性についてテーマを投げかけているように思います。
Panic
1986年に発売された12枚目のシングル。
1986年のチェルノブイリ原発事故の報道の後も、いつもと変わらずヒット曲を流すラジオDJへの憤りから、この曲が生まれたと言われています。
「ディスコを焼き払え、くだらない曲ばかり流すDJを絞首刑にしろ」という過激なフレーズが軽快なリズムで歌われます。
つまらない曲で溢れているロンドンをパニックだと皮肉を込めて表現されています。
Asleep
繰り返される落ち着いた悲しいピアノの音が死を思わせるバラード。
とにかく暗く、重たく最後まで救いのない曲です。
曲の最後で、赤ちゃんが遊ぶおもちゃの音が入っているのは、死を思う過程で誕生の瞬間に思いを馳せているからのように思います。
「もう一つの世界がある、今よりもマシな世界がきっとある…」と繰り返しながら終わっていくラストは救いがないですが、救いがないところがこの曲の魅力だったりもします。
Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
「昨日の夜 誰かが僕を愛してくれる夢を見た」というフレーズから始まる曲。
主人公の愛されることへの渇望が強く描かれていて、聴くと重たい寂寥感で心がいっぱいになります。
夢の中で自分の全てを肯定し、愛してくれる誰かに出会いますが、現実では「今の自分にそんな人が現れるはずもない」ということが頭のどこかで分かっているような自虐的な雰囲気がよりこの曲の寂しさを引き立てているように思います。
Still Ill
デビューアルバム「The Smiths」に収録。
「Still Ill」(未だに病んでいる)というタイトルは、社会からの強い疎外感を歌っています。
「England is mine, it owes me a living(イングランドは僕のものだ、僕を養う責任がある)」というフレーズが印象的で、貧困層と富裕層の格差を大きくしたサッチャー政権への批判だと言われています。
I decree today that life
Is simply taking and not giving
England is mine, it owes me a living
But ask me why and I’ll spit in your eye
Oh ask me why and I’ll spit in your eye今日、僕は断言するよ
人生とはただ奪うものだ、与えるものじゃない
イングランドは僕の国だ、僕を養う責任がある
なぜかって聞くなら、君の目玉に唾を吐いてやる
あぁ、理由なんて聞くのなら、君の目玉に唾を吐いてやる
Hand In Glove
The Smithsの記念すべきファーストシングル。
タイトルの「ハンド・イン・グローブ」とは、密着する手袋と手のように「きわめて親しい間柄」や「結託して」、という意味を持つ言葉です。
社会的には弱者と呼ばれる立場にあっても、自分たちだけが手にしているものもあるはずだという内容になっています。
Hand in glove
The sun shines out of our behinds
Yes, we may be hidden by rags
But we’ve something they’ll never have手を組もう
陽の光は僕らの背中に降り注ぎはしない
そうさ、僕らは惨めな身なりをしているかもしれない
だけど、奴らが絶対に手に入れられないものを手にしているんだ
しかし、前向きともとれる歌詞になっているようで、最後は「And I’ll probably never see you again(もう君には二度と会えないんだろう)」というフレーズで終わっているのが印象的です。
Reel Around The Fountain
デビューアルバム「The Smiths」に収録。
児童誘拐を仄めかすような歌詞が特徴的ですが、男女や恋愛という枠を超えた普遍的なラブソングのようにも思えます。
「人々はみんな君に価値を見出さなかったけど、僕には君の価値が分かるよ」という歌詞を聴くと、孤独な労働者階級の若者の心に響いた理由が分かるような気がします。
Fifteen minutes with you
oh I wouldn’t say no
oh people see no worth in you
but I do君との15分間
僕は嫌だなんて言わないよ
人々はみんな君に価値を見出さなかったけど
僕は君の価値が分かるよ
The Headmaster Ritual
2ndアルバム「Meat Is Murder」収録。
体罰を与える教師に怯えている生徒の視点で描かれた曲になっています。
ヨーデルのような歌い回しが、そんな生徒の精神的な崩壊を表現しているようで苦しくなります。
「体育を休ませてくれ」と言っただけでシャワーをかけて蹴り飛ばされたり、他の生徒が殴られているのを見て「こんなところにいたくない」と感じている様子が描かれます。
学校や家などの子供のうちはなかなか逃げられない場所に対して居心地の悪さを感じている人に是非聴いて欲しいです。
Pretty Girls Make Graves
デビューアルバム「The Smiths」に収録。
先ほど紹介した「I Know It’s Over」にも似たような描写が出てきますが、「可憐な少女が墓を建てる」というタイトル通り、自分が土葬されていくように感じています。
女性に対する信頼を失ったという内容になっていて、これは女性が好むような自信満々でマッチョの男性に対する負い目から来ているのかもしれません。
最後は「Hand in glove」の「陽の光は僕らの背中に降り注ぎはしない」という歌詞で締められています。
▼モリッシーの人生と音楽の話