映画「レオン」が面白くないと感じた3つの理由。リュック・ベッソンの公私混同作
監督・脚本:リュック・ベッソン
出演: ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン
あらすじ
凶暴な純愛がここに完結する。『グラン・ブルー』『二キータ』のリュック・ベッソン監督が、ニューヨークを舞台に放つアクション・エンタテインメント!アカデミー賞女優、ナタリー・ポートマン鮮烈のデビュー作。『レオン オリジナル版』には未使用の、レオンとマチルダが心を通わす過程がより緻密に描かれた、22分のシーンを加えた完全版。家族を惨殺された12歳の少女マチルダは、隣の部屋に住む殺し屋レオンに助けを求める。戸惑いながらもマチルダに救いの手を差し出すレオン。そこから二人の奇妙な共同生活が始まった。弟の仇を討ちたいというマチルダにしかたなく殺しのテクニックを教えるレオンと、読み書きもできないレオンに文字を教えるマチルダ。やがて二人の間には父娘とも恋人ともつかない愛情が芽生えていくが…。(Filmarks)
1994年のアメリカ・フランス合作映画「レオン」。
殺し屋のおじさんと当時12のナタリー・ポートマン扮した少女が奇妙な同居生活を始めるというこの映画は、日本でもずばぬけて知名度が高くファンが多い映画だ。
個人的には、この映画が好きになれなかった。ストーリーのとっつきやすさと演出は十分だと思うので、レオンが好きな人の気持ちが全く理解できないわけではないし、否定する気は全くない。本当に個人的な感覚として面白くないと感じてしまったというだけだ。
今からなぜそう思ったのか理由を3つの項目に分けて書いていこうと思う。
1. リュック・ベッソンの公私混同作
映画「レオン」の中では、マチルダがこのようなセリフを言ってレオンを誘惑する場面がある。
「女の子の初体験は大切なの。その後の性生活に影響が。姉が持っていた本で読んだの。私の友達は初体験を大切にしない。好きでもない男の子と平気で…。ただの背伸びよ。初めてタバコを吸うのと同じ。幸せな初体験をしたいわ」
ロリコンを題材にした映画を制作するのは問題ないと思う。それは映画の中の話であって、たとえ監督自身がそのような願望を持っていたとしても、作品として完成されていれば別に良いのではと個人的には思っている。
でもこの発言はリュック・ベッソンの願望を具現化したかのような都合の良くてステレオタイプな「孤独な少女」像が押し付けられている感じがして凄く嫌悪感を抱く。マチルダが家族を殺されたという生い立ちのせいで父親の愛情に飢えていたとしても、こんなおじさんに性的に媚びるような少女に設定する必要がどこにあったんだろうか。
実は元の脚本では2人が肉体的に恋人関係になるシーンが描かれていたが、ナタリー・ポートマンの両親からの反対で削除されたという話がある。このシーンがあったら多分ここまで名作と言われていないと思うから排除して正解だったとは思うけど、問題はこの監督が自分自身のロマンと映画の中のキャラクター設定をいっしょくたにしていること。こんな明らかに本筋とは違うような場面を脚本に入れ込んでいたことからもそれは明らかだし、そういう背景を知ってしまうと純粋な物語として見ることはなおさらできなくなってしまう。
2. 観葉植物の演出が過剰
レオンは観葉植物を大事にしていて水をあげたり世話するシーンが何度も映り、これがラストのマチルダが学校の庭に観葉植物を植えて「大地に根を張って暮らしたい」と言っていたレオンの願いを叶えてあげるという伏線になっているのだけど、すごくあざとく、分かりやすい。こんなに何度も観葉植物を映されたら「きっと何かあるんだろうな」とまる分かりで映画的スマートさが何もない。
3. ジャン・レノが「殺し屋」であることの説得力のなさ
こんなことを言ってしまっては元も子もないけど、「殺し屋が子供を預かるはずがない」という大前提での部分でのストーリーの破綻に加えて「この人って殺し屋なんだっけ」と思うほど、ジャン・レノが普通のおじさんにしか思えない。2人がコスプレをして家で遊ぶシーンはきっと、「残酷な現実と平和な日常」という対比で演出したいのだとは思うけど、「アンダーグラウンドな世界で生きてきた孤独な殺し屋感」があまりにもなさすぎて、主人公であるレオンを全くかっこいいと思えない。
レオンがミルクが好きだったり、ゲイリー・オールドマン演じるノーマンが「嵐の前の静けさは最高だ。俺がベートーベンを演奏してやるぜ」と言ってから仲買人の妻や娘と息子をショットガンで皆殺しにしてしまう場面など、時計じかけのオレンジを彷彿とさせるシーンがいくつかあるのだけど、「人間の人格を簡単に変えることはできない」というラストに終始した時計じかけのオレンジと比較すると、今まで無情にも何人もの人間を殺してきた殺し屋が一人の女の子に出会った程度で人間的な感情を取り戻していくというストーリーはあまりにも説得力がないように思える。
まとめ
声を上げて好きじゃないと言いづらい映画の代表格である「レオン」。ゲイリー・オールドマンのぶっ壊れた演技は好きだし、ストーリーがキャッチーなので飽きずに観れるけど「面白い映画」とは思えなかったというのが正直な感想だった。殺し屋はタランティーノ作品のようにずっとぶっ壊れてて欲しいし、ヒューマンドラマとして見るにはあまりに登場人物たちの心の動きが単純化されている。そしてレオンがロリコン映画だから嫌だというよりも監督の願望を明らかに押し付けるような演出やセリフがあったことが何よりこの映画を台無しにしているのではないかと思った。