映画「明日、君がいない」あらすじ感想と考察【午後2時37分、誰かが死ぬ】

監督:ムラーリ・K・タルリ
制作年:2006年
制作国:オーストラリア

2006年にオーストラリアで制作された映画「明日、君がいない」

原題は「2:37」であり、とある高校を舞台に「午後2時37分に誰かが自殺する」シーンから始まる。

そしてそこから、「自殺するほどの問題を抱えていたのは一体誰だったのか」というのを考えながら観ていく映画になっている。

終始暗い雰囲気で、精神的にしんどい作品であることは先にお伝えしておきたい。心が弱い時に観る映画では決してない。

監督のムラーリ・K・タルリがこの映画を撮ったのは当時なんと19歳ということもあり、学校生活の陰鬱な部分にリアルにスポットが当たった作品になっている。

「明日、君がいない」のあらすじ(ネタバレあり)

午後2時37分、誰かが死ぬ

とあるオーストラリア南部の高校の敷地内。とある女子生徒は目の前の扉の下から血が流れ出していることに気が付く。

扉を開けようとするも開かず、合鍵で教師や他の生徒と共に中に入るも手遅れ。中にいる人間は既に死んでいた。

自殺してしまったのは誰だったのか。ここで自殺が起こる前に時間は戻り、6人の生徒の高校生活が映し出される。

序盤

メロディー

優秀な兄、マーカスを持つ女子生徒。両親はマーカスにばかり関心を向けていて、家族の中で居心地の悪さを感じている。

父は出張がちで母親もふらふらとよくどこに行ってしまい、基本的にはマーカスと2人で暮らしている。母親とは電話でたまに話すが、それでもマーカスのことばかり。

マーカス

メロディーの兄、優秀な父親をもったことからプレッシャーを感じている。

勉強とピアノができ、自分は周りとは違うと、同級生を見下している。

学校でピアノを弾いていると女子生徒から話しかけられ、課題で提出した空想の物語について「ヒロインは誰?」と聞かれるも相手にしない。

先生からも、課題で提出した物語について「お前、恋をしているのか?」と質問を受ける。マーカスは「なぜそんなことを聞くんだ」と質問をすると「例えば銃乱射の物語を書いてきた生徒がいたら、俺は一応そいつを調べる。それと一緒だ」と言われる。更に「この作文を父親に見せてもいいか?」と聞かれ、マーカスは拒否する。

ルーク

勉強はできないがスポーツができてスクールカーストトップの生徒。同級生のサラと付き合っている。

男子のいつもつるんでいる取り巻きが3人いて、排尿がコントロールできず学校で漏らしてしまうスティーブンやゲイであることを公言しているショーンをいつもみんなでからかっている。

彼女がいることをステータスのように思っている。

ショーン

ゲイであることを公言している。そのせいでいつもルークとその取り巻きにからかわれているが、あまり相手にしていない。

親にゲイであることを告白したが、一過性のものだからと理解されない。

スティーブン

自分で排尿をコントロールすることができない、イギリスからやってきた男子生徒。

授業中に漏らしてしまい、女子生徒からクスクスと笑われている。

イギリスの学校では理解があったようだが、先生からも「情けない」と叱られたり、廊下を歩いているだけで「不潔」「最低」などと言われる。

サラ

学校一の人気者、ルークと付き合えていることをステータスに思っている。

ルークと結婚することを夢に見ているが、ルークは友達を優先してばかりで、少し距離を感じている。

中盤

メロディー

トイレで妊娠検査薬を使って調べたところ陽性だということが判明する。

泣きながらトイレを出ると、サラの友人に陽性の結果が出ている妊娠検査薬を目撃されてしまい、サラにバラされてしまう。

マーカス

90点を取らないと許してもらえない両親に怯えている。

テストの点数が発表され、87点だった時になんとか加点してもらえないかと教師にお願いするが、聞き入れてもらえず苛立ちを覚えていた。

ルーク

仲間たちからメロディーと性的関係を持っているのか聞かれる。ルークは何も答えない。

ショーン

カウンセラーにゲイであることの悩みを相談。ゲイであることを告白してから友達とも家族ともうまくいかない苦悩を抱えていた。

ストレスのせいで、校舎裏でマリファナを吸うようになってしまう。

スティーブン

いじめが無くならず悩んでいるが、優しい家族だからこそ言えないでいた。

ルークがサッカーをしている様子を見学し、自分もあんな風に運動ができたらと空想をするようになる。

サラ

友達からメロディーの妊娠を聞かされ、相手がルークなのではないかと疑う。ルークはメロディーといることがたまにあり、最近サラに対して冷たかったからだ。

メロディーに対して「このヤリマンめ」と吐き捨て、ルークにこれ見よがしにキスをしたりする。でもルークは変わらずサラに対してそっけない。



終盤

メロディー

メロディーはルークと関係を持っていたのではなく、兄のマーカスに強姦されたために妊娠してしまったことが明らかになる。

メロディーは13歳の時から体を触られたりしていたのだった。

ショックで涙が止まらず、早退することに決める。

そしてマーカスにその噂が伝わると、廊下で泣いているところにやってきたマーカスに暴行され、「こんなことになったのはお前のせいだ!」と言われる。

マーカス

メロディーが妊娠した話を聞き、自分の子を身ごもったことを悟り、苛立ちが抑えられずメロディーに暴行してしまう。

また、序盤で紹介したマーカスが創作した物語のヒロインはメロディーだったことが分かる。

ルーク

サラと付き合っていたルークだったが、実はショーンと付き合っていたことが明らかになる。

自殺が起こった「その日」、トイレにやってきたショーンにキスをされ、「いつまで俺のことを避けるつもりだ」「皆お前がゲイだと知っている」と言われる。

ルークはゲイであることを隠すためにサラと付き合っていた。だからサラに対しても冷たい態度を取っていたのだった。

スティーブン

ルークとショーンのやりとりをたまたま聞いてしまい、ルークに「今の話を誰かに言ったら殺す」と脅され、暴行される。

鼻血を出しながら歩いていると、ケリーから声をかけられ、ティッシュをもらう。ケリーだけはスティーブンに対しても変わらず優しく接していた。

サラ

ルークがゲイであることを知らないサラは、ルークに触れようとすると「触るな!」と怒られてしまう。

メロディーの妊娠相手がルークなのかどうかも怖くて確認できず、泣いてしまう。

結末:自殺してしまったのは?

ここまでが自殺するシーンまでの出来事。

誰が自殺してしまってもおかしくない程、6人の登場人物たちは疲弊し、追い詰められている。

だが、結論から言うと実際に自殺してしまったのはこの6人ではなくケリーという女の子だった。

一応あらすじには2回ほど登場しているが、映画を観ていても「ケリーって誰?」となるほど存在感の薄い女の子。

ここから初めて彼女中心の世界を見ることになる。

ケリー

ケリーは6人のそばにいて、ずっとニコニコと周りを気遣っている女の子だった。

ピアノを弾いているマーカスのそばに近寄り、マーカスが課題で出した創作の物語について質問をしていた。

しかし、マーカスはあまり話す気がないようで、適当な返事をする。

それでも話しかけ続けていたケリーだったが、最後にはマーカスは質問にも答えず去ってしまう。

その後、ルークに殴られて鼻血を出していたスティーブンにケリーは優しくティッシュを差し出す。

ここでは元々誰がティッシュを差し出したのかは映っておらず、後からケリーだったと分かる。

それくらいスティーブンにとってもティッシュをくれた人の存在をちゃんと認識していなかったことが分かる。

スティーブンは顔もよく見ずに「ありがとう」とティッシュを受け取って去ってしまう。「大丈夫?」と心配したケリーの言葉にも、スティーブンは「ああ」としか答えなかった。

その後、ケリーはメロディーが妊娠したことを聞かされて怒っているマーカスに出くわす。

しかし、そんなことを知らないケリーはマーカスに話しかけ、「これ、今朝話していたやつ」と楽譜を差し出すとマーカスは何も言わずに楽譜を手からむしり取って去ってしまう。茫然としているケリー。

そして午後2時37分、彼女はトイレへ向かい、ハサミで腕を切り、のたうちまわりながら死んでしまう。



「明日、君がいない」の感想

今まで観た中でもあまりにも強烈な印象を残した映画。

この映画の最大の見どころは、なんと言っても自殺してしまうのはこの6人ではなく、その6人のそばにいて、いつもニコニコと誰かを気を遣っていた女の子だったという結末。

他の登場人物と違い、彼女が何に悩んでいたのかは明確に描かれてはいない。

でもちょっとだけ分かってしまう。何かあったわけじゃないけど、自分は誰からも必要とされてないのではと思うような些細な出来事の積み重ねで死ぬことを選びたくなってしまう気持ちが。

この映画には独白のような形で、登場人物がそれぞれの悩みを打ち明ける映像が入る。

6人は口々に自分たちの悩みを語るが、最後に入るケリーの独白では全くそんな素振りはない。1人だけニコニコと姉に息子ができた話を嬉しそうにする。

独白という形でさえ、彼女は自分の悩みを言語化しなかった。自分さえ欺いてニコニコと平気なフリを続けていた結果、あまりにも些細なことが引き金になってしまった。例えそれが質問を無視されたとか、心配したのに素っ気なく返されたとかそんなことでも。

しかも、映画内で登場人物たちは誰もケリーの名前を呼ばない。空気のように扱い、彼女がにこにこと話しかけても皆それを当たり前だと思い適当に受け流すだけなのだ。

だからこの映画の視聴者でさえ、彼女の名前を自殺してから知る。自殺して初めて学校内で注目を集めるような、そんな存在。生きていて、これ以上の虚無感と悲しみがあるだろうか。

「いちばんたいせつなことは目に見えない、人間たちはこういう真理を忘れてしまった」、この映画を観て星の王子さまの有名な一節を思い出した。いつもニコニコと笑顔でいて、悩みも話さない人がその見た目のまま幸せだとは限らない。知っているはずなのに、自分のことで精一杯でそういう想像をいつも忘れてしまう。

この映画は実話ではないが、監督が親友の自殺を元に着想を得て作られたと言われている。

監督が制作当時19歳ということもあり、学生時代のなんとも言えない閉塞感が凝縮されたような重たい映画だった。

決して精神が参っている時に観る映画ではないけど、良い映画であることは間違いないので是非一度見てみてほしい。

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