The Jesus and Mary Chainとはーノイズ×甘いメロディーの黄金比を発明したバンド
The Jesus and Mary Chain
・イギリスのロックバンド。スコットランドで結成。
・通称:ジザメリ、JAMC、メリーチェーン
・結成年:1984年
・レーベル:クリエイション、ブランコ・Y・ネグロ
・ジャンル:オルタナティブ、ノイズポップ、シューゲイザー
・中心メンバー:ジム・リード(弟)、ウィリアム・リード(兄)
・影響を受けたサウンド:ポストパンク、ガールポップ、ノイズパンク
1985年に発表した1stアルバム「Psychocandy」でシューゲイザーの草分け的存在として知られている「The Jesus and Mary Chain」。
彼らの60年代のガールポップのような甘いメロディーとノイズパンクの融合サウンドは、77年のパンクムーブメントの勃興から8年経った後、新しい活気が必要とされたムードに熱狂的に迎え入れられ、一時期時代の寵児となった。
2nd以降はこのようなサウンドは基本的に鳴りを潜めてしまったが、ピクシーズなど90年代のオルタナサウンドを聞くと、The Jesus and Mary Chainの影響がいかに大きいものだったかが分かる。
今回はそんなThe Jesus and Mary Chainがどんなバンドなのか、エピソードや代表曲、影響を受けたアーティストと共に紹介していこうと思う。
The Jesus and Mary Chainの代表的なエピソード
・バンド名の意味は「キリストとマリアの絆」
・最も初期のメンバーはジムとウィリアムと同じ学校だったダグラス・ハートの3人。16歳で義務教育を終えた後、定職につかずブラブラしている中でアコースティック・ギターで曲を作り始めた。
・デビュー前、ロンドンでの最初のライブを見ていたアラン・マッギーが「In a Hole」の1曲を聞いただ聞いただけで、クリエイションからのデビューを誘う。
・初期のライブでは暴動が絶えずイギリスの音楽プレスからは「セックス・ピストルズ依頼の衝撃」と言われる。バンドが有名になった背景にはこのような悪評の存在もあった。
・クリエイションからデビューシングル「Upside Down」をリリースし、インディーチャートの1位を記録。その時期にドラムのマレイ・ダルグリッシュを事故で失い、助っ人にプライマル・スクリームのボビー・ ギレスピーが入る。
・「Just Like Honey」は2003年、東京を舞台にしたソフィア・コッポラの映画「ロスト・イン・トランスレーション」のサントラに起用され、日本でも知られるきっかけになる。
・「Just Like Honey」のイントロのドラムはロネッツ「Be My Baby」より引用
・1987年2ndアルバム「Darklands」以降暴動は封印される。「Psychocandy」リリース以降、数回のライブとアルバム未収録シングル「Some Candy Talking」リリースの他に目立った活動が見られず、86年の秋にはバンドが解散したのではと噂が広まっていた。
The Jesus and Mary Chainの代表曲6選
1. Just Like Honey
JAMCの代表曲。
上記でも紹介したが、スカーレット・ヨハンソン主演の東京を舞台にした映画「ロスト・イン・トランスレーション」のサウンドトラックしても使われた。
「Psychocandy」は恋人との依存的な関係を思わせる楽曲が多いが、その断腸の思いを断ち切ってなんとか別れに向かうような曲にも聞こえる。
2. Darklands
2ndアルバム「Darklands」の冒頭を飾る曲。
天国でも地獄でもない、何もない世界を闇の国として、その場所への逃避願望を歌っている。
気怠く歌われる「僕が思うに天国はあまりに地獄に近すぎる」というフレーズが印象的。
3. Happy When It Rains
同じく2ndアルバム「Darklands」収録楽曲「Happy When It Rains」
爽やかな曲調で「君が甘い言葉を囁いたから僕は雨降りでも幸せでいられる」なんて歌っているにも関わらず、実際は苦痛の部分に蓋をして騙し騙し自分を納得させているような、悲しい曲だったりする。
4. April Skies
「Darklands」収録曲でシングルカットされた楽曲の中でも最もヒットした曲。
ポップセンスが全面に出ていながらも、自滅的とも献身的ともとれる歌詞の世界観は、4月の明るさの中に潜む陰鬱なムードにぴったりとも言える。
5. Head On
3rdアルバム「Automatic」の代表曲。ピクシーズがカバーしたことでも有名。
良くも悪くも、初期と比べると芯がしっかりとしていて野太く安定感のある大衆向けサウンドに変わってしまった「Automatic」なのだけど、「Head On」はとにかく軽快でキャッチーで、ボソボソと歌っていたようなボーカルも声を張り上げて歌っているため、聴きやすさではNo.1かもしれない。
6. Reverence
4thアルバム「Honey’s Dead」の冒頭に収録されている曲。
「キリストのように死にたい」「釘の敷き詰められたベッドで死にたい」とイエス・キリストやジョン・F・ケネディといったタブーを盛り込んで繰り返される。
死にたい、死にたいと脱力的かつ暗い熱量を持って歌われるこの曲は、いつの時代にも共鳴するものがある人がいるんじゃないかと思う。
The Jesus and Mary Chainのおすすめアルバム
1. Darklands(1987年)
一番好きなアルバムであり、このアルバムを最高傑作に挙げている人もちらほら見かける2ndアルバム「Darklands」。
フィードバックノイズから離れたというサウンド的な変化はもちろん、暴動も封印しThe Jesus and Mary Chainがバンドの在り方そのものに向き合った決意表明のようなアルバム。サウンド的にもクリーンなギターを中心に前作よりも歌を聞かせるアルバムになっているので聴きやすい。
おすすめトラック:「Darklands」「Happy When It Rains」「April Skies」(太字は必聴曲)
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2. Psychocandy(1985年)
デビュー作であり、The Jesus and Mary Chainの代名詞的なアルバム。
爆発しそうなアンプから溢れ出る悲鳴のようなフィードバックノイズとキャッチーな甘いメロディーが融合したサウンドは荒削りだけど、どこか愛おしくて心に残る。
好んで聴いていたと言われているThe Velvet UndergroundやThe Birthday Party、シャングリラ スの影響が垣間見える作品。
おすすめトラック:「Just Like Honey」「Never Understand」「The Hardest Walk」「Some Candy Talking」
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3. Honey’s Dead(1992年)
The Jesus and Mary Chainの集大成的4枚目のアルバム。
「Psychocandy」のようなフィードバックノイズから「Darklands」のようなキラキラした優しいギターサウンド、そして「Automatic」のようなヘヴィーさもあり、The Jesus and Mary Chainの今までのキャリアが昇華されたような4作目。
ファンからの人気も高く、このアルバムを最高傑作として挙げる人も多い。
おすすめトラック:「Reverence」「Far Gone and Out」「Almost Gold」「Sundown」
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4. Damage and Joy(2017年)
2007年に活動を再開し、約19年ぶりにリリースした7作目にして最新作。
19年という月日の中で音楽シーンも目まぐるしく変わったのに、JAMCは時代とは無関係のところでずっと自分たちの音を鳴らしてくれているんだと、一種の安心感を抱いた記憶がある。
スカイ・フェレイラの参加曲もあり、聞き応えのあるアルバム。
おすすめトラック:「Amputation」「Always Sad」「Mood Rider」
5. Automatic(1989年)
大衆にむけたサウンドであり、転換作でもある3作目「Automatic」。
「Darklands」から軽快さとヘヴィーさを伴うダイナミックなサウンドに進化している。
おすすめトラック:「Blues from a Gun」「Head On」
6. Munki(1998年)
再結成前のラストアルバム。17曲入りという大作にも関わらず存在感は薄いけど、良曲揃い。
「I Love Rock’n’Roll」から始まり、「I Hate Rock’n’Roll」で終わるのがThe Jesus and Mary Chainらしさを象徴しているように思う。
おすすめトラック:「I Hate Rock’n’Roll」「Cracking Up」
7. Stoned and Dethroned(1994年)
アコースティックギターを中心としたサウンドに一気にシフトした5作目。
消して悪いアルバムというわけではないが、凡曲多めの作品になってしまった印象がある。個人的には「Save Me」がお気に入りだ。
おすすめトラック:「Sometimes Always」「Save Me」
The Jesus and Mary Chainが影響を受けたバンド
The Velvet Underground
1964年に結成されたアメリカのロックバンド。特に2ndの「White Light/White Heat」はThe Jesus and Mary Chainの源流とも言える実験的なサウンド。
代表曲:「Sunday Morning」「Heroin」「Pale Blue Eyes」
The Stooges
1967年に結成されたアメリカのロックバンド。ガレージ・ロック、オリジナル・パンクの代表的なバンドとして知られている。
デビューアルバムの「イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ」はヴェルヴェッツのオリジナルメンバー、ジョン・ケイルにプロデュースされている。
代表曲:「I Wanna Be Your Dog」「1969」
シャングリラス
1963年に結成されたアメリカのアイドルグループ。60年代を代表するガール・ポップスグループで、当時活躍していたアイドルグループの中でもカルト的人気が高かった。
代表曲:「Leader of the Pack」「Remember(Walkin’ In the Sand)」
The Jesus and Mary Chainが好きなら
ピクシーズ
1988年にデビューしたアメリカのオルタナティヴ・ロックバンド。JAMCに影響を受けているという意味で紹介。
ニルヴァーナが手本にしたバンドでもあり、乾いたノイズギターと絶叫するブラック・フランシスのボーカルはとてもとっつきやすいとは言えないけど、感情にストレートにくる音楽。
アルバム「Trompe Le Monde」の中ではJAMCの「Head On」もカバーしている。
代表曲:「Where Is My Mind?」「Gigantic」「Here Comes Your Man」
The House of Love
1986年に結成されたイギリスのロックバンド。
MY BLOODY VALENTINEやTHE JESUS AND MARY CHAINと共に初期CREATIONレーベルの顔と言える名バンド。
代表曲:「Christine」「Shine On」
The Pains of Being Pure At Heart
惜しくも2019年に解散してしまったアメリカのインディーロックバンド。
キラキラした青春サウンド全開シューゲイザーの1stアルバム「The Pains of Being Pure At Heart」は「Psychocandy」が好きなら是非聴いてみて欲しい。
代表曲:「Contender」「Young Adult Friction」
Flying Saucer Attack
イギリス、ブルックリンの音楽グループ、Flying Saucer Attack。
ノイズやアンビエントと気だるいボーカルを特徴的。特にPsychocandyのような荒々しいノイズギターが全面に出つつも、浮遊感があって幻想的な世界に誘われる1stアルバムは文句なしの名盤。
代表曲:「My Dreaming Hill」
スーパーカー
現在でも根強く支持されている90年代の日本のロックバンド。いしわたり淳治が作詞をしていたことでも有名。
JAMCが好きなら、青くさい轟音ギターが全開の1st「スリーアウトチェンジ」は必聴。
代表曲:「Lucky」「cream soda」
画像出典元:Discogs