映画「ラストレター」あらすじ感想 手紙を通して語られる学生時代と現在の物語

監督・脚本・原作:岩井俊二

出演:松たか子、広瀬すず、福山雅治、神木隆之介、森七菜、鹿野英明、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂

「スワロウテイル」「リリィ・シュシュのすべて」の岩井俊二監督の最新作「ラストレター」。

この映画は学生時代と現在の物語が手紙を通じて進行していくラブストーリーです。

岩井俊二の監督作品には「Love Letter」という作品があり、中山美穂が出演しているのでどこかオマージュを捧げたようなタイトルになってます。(以下ネタバレ有)

あらすじ

姉のフリをして初恋の人に手紙を出す妹

裕里(松たか子)の姉の未咲が亡くなってしまった。裕里は葬式で同窓会の案内を受け取り、未咲が娘の鮎美に手紙を残したことを知る。鮎美はそれを読む決心がつかず、仏壇に置いたままにしていた。

裕里は姉の死を知らせるために同窓会に参加するが、生徒会長で人気者だった姉に間違えられ勝手に盛り上げられしまう。結局、自分が未咲ではなく妹の裕里であることを言いだせないまま同窓会は終わってしまった。

同窓会の帰り道、裕里は自分のことを未咲だと思い込んだ初恋の相手、乙坂鏡史郎と再会する。裕里はその場で連絡先を交換するも、鏡史郎の誘いはなんとか断り家に帰ることにした。

後日、鏡史郎から連絡が来ているのを見つけ怒った裕里の夫、宗二郎(鹿野英明)が裕里のスマホを壊してしまう。

連絡が来ていたら申し訳ないと思い、裕里は手紙でその旨を知らせる。「返事は出さなくていい」と書きながら裕里は姉のフリを続けて何度も日常の他愛のない話を鏡史郎に手紙で送ってしまうのだった。

並行して始まるもう一つのやりとり

宗二郎は裕里への罰として大型犬を二頭連れて来る。困り果てた裕里は実家に犬を一頭連れて行くことにした。

実家には葬式の後、鮎美と一緒に居たいといって夏休みの間だけ泊まっていた裕里の娘の颯香がいた。2人がしばらく犬の世話を引き受けることになった。

裕里はこの出来事をまた手紙に書いて鏡史郎に送る。そこには実家の近くの高校の写真も添付した。その手紙を受け取った鏡史郎は返事を書いて実家の住所に出すことにした。

裕里は夫の母、昭子(水越けいこ)が通っていた高校時代の英語教師、波戸場(小室等)の住所を借りて手紙を出すことにする。彼は手を怪我していたので、裕里は代わりに英文添削の仕事を手伝った。

一方、実家に届いた鏡史郎の手紙は鮎美と颯香が受け取っていた。手紙を読んだ2人も裕里と同じように未咲のフリをして返事を書き始めやりとりを始める。

鏡史郎は返事の中で学生時代の鏡史郎と未咲の関係がどんな関係だったのかを書いた。転校生として未咲と同じ学校に入学した鏡史郎は友人に勧められるがまま生物部に入部したこと。そこで後輩である裕里と出会ったこと。そして裕里と親しくなっていくうちに姉であり生徒会長の未咲の存在を知り一目惚れしたこと。裕里に未咲に充てたラブレターを渡してほしいと何回も頼んでいたこと。裕里は鏡史郎のことが好きで実は手紙を渡していなかったことなどが明らかになった。




未咲が死を決意するまで

鏡史郎は波戸場の家を訪れる。慌てて家に招き入れる裕里に、鏡史郎は「君、妹の裕里さんでしょ」と言う。「同窓会の夜から全部分かっていた」と。そして鏡史郎は自分は売れない小説家だが、未咲のことを書いた「未咲」という本で賞をとったこと、大学時代付き合っていたことなどを話した。

未咲は今、どうしているのかと聞かれた裕里は覚悟を決めて未咲が亡くなったことを告げる。そして阿藤陽市という男と結婚し鮎美を生んだが、暴力を振るわれ続けていたこと。やつれた挙句に手首を切って自殺してしまったことを話した。

鏡史郎はその足で、未咲がかつて住んでいたアパートを訪れる。そこにはサカエ(中山美穂)という妊娠した女性がいた。阿藤はそこに住んでいたが外出中だったのでサカエに連絡をとってもらい、近所の居酒屋で会うことになった。

鏡史郎は阿藤に未咲が死んだことを伝えると「つまらない女だった」と話す。無邪気で怯えた目をした未咲と鮎美と過ごすことに息苦しさを感じていたから逃げ出したのだと。「お前は未咲の人生には何の影響も与えてない。その小説は俺と未咲からお前へのプレゼントだ」と吐き捨てるように鏡史郎に言った。

結末

その後、鏡史郎は自分の母校を訪れる。校舎の写真を撮りながら歩いていると大型犬と散歩している鮎美と颯香に出くわす。2人があまりにも未咲と裕里にそっくりなので思わず声をかけると、鮎美もすぐにそれが乙坂鏡史郎だと気が付いた。「せっかくなので母に会ってあげてください」と、鮎美は鏡史郎を実家に通した。仏壇に線香をあげると、鏡史郎は2人に「ちょっと1人にして欲しい」と言い、しばらく思い出に浸っていた。

本棚に目をやると、自分が書いた「未咲」の本があることに気が付く。鮎美は「そこに書かれていることは事実なんですか?」と尋ねる。そして未咲が鏡史郎から貰った手紙を宝物のようにとっていたこと、いつか「この人が会いに来てくれる」と未咲と鮎美が信じていたことを話した。「もう少し早く来てくれてたら」鮎美は思わずそう呟いていた。

後日、颯香が自宅に帰り一人になった鮎美は母が遺した手紙を開封する。それは生徒会長だった未咲の卒業式の挨拶で、鏡史郎と2人で作った文章だった。未咲がまだ未来への希望でいっぱいだった時の文章を鮎美は声に出して読み上げるのだった。




感想:とにかく、不思議な映画

正直、複雑な感想だった。終わり方に大きなインパクトもなければ、豊川悦司演じる既視感たっぷりのクズ男は「つまらない女だったよ」とあまりに紋切り型なセリフを吐くし、小説家として大成できないまま高校時代の好きな女の子のことをいつまでも引きずる主人公の乙坂鏡史郎は魅力が無さすぎる。それも書けた小説が「未咲」という自分の実体験をつらつら書いたものだけなのもあまりにかっこ悪い。更には広瀬すずと森七菜の2人は儚く繊細に描かれていたのに対して、大人たちの人物描写が表層的でいまいち掴めない。

そんな訳であまり作品の世界に入り込めなかったのに、いざ鮎美が「もう少し早く来てくれてたら」と寂しそうに言う場面ではなぜか泣いてしまった。本当に不思議な映画だった。

やっぱり岩井俊二は映像で魅せる監督なのだなぁと思う。流れる映像がいちいち綺麗で楽しめたし、それにプラスして手紙と言う風情のあるものを通して物語が進行していくのも味があって良かった。年をとった未咲が登場しないところも、鏡史郎にとって未咲との思い出が学生時代のままストップしているというのを感じさせられてスマートだった。

ただあくまでノスタルジーの雰囲気とそれっぽいストーリーしかなかったように思う。身も蓋もない言い方をすれば中身があまりない。そしてそれが大人たちの人物描写に踏み込めなかったからのような気がしてならない。エネルギーとノスタルジーに満ちた作品だからこそ、もっと人々を丁寧に描いてほしかったなぁと思った。

▽原作

 

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