圧倒的職人バンドTHEATRE BROOK「TALISMAN」(1996年)アルバムレビュー
THEATRE BROOK「TALISMAN」
ファンキーなグルーヴで貫かれたR&Rに、ヒップホップやワールドミュージック、エレクトロニクスなど雑多な要素を取り込みながらも、壮大なスケール感でロマンティックに包み込む音楽性。THEATRE BROOKは結成から30年を超える日本のロックバンドだ。
フロントマンである佐藤タイジの圧倒的なカリスマ性を、バックを固める名うてのミュージシャンたちによるアンサンブルが華やかに彩る。それぞれのパートが高い技術で演奏するため、全パートに耳を傾けてほしい職人的バンドでもある。
TALISMAN(護符)と題された、この記念すべきメジャーファーストアルバムは1996年にリリースされた。今回は彼らの代表作とも言うべきこの作品を、全曲レビューという形でお届けしたいと思う。
メキシコで撮影されたという、ジャケットやブックレット内のアートワークも非常に雰囲気のある良い写真が並ぶので、できれば音源を手に入れて眺めながらこの作品を聴き込んでほしい。
1.TEPID RAIN
ロードムービーのオープニングのような、気怠いギターのカッティングと共にこのアルバムは幕を開ける。オルガンが響き渡る、クラシックロックのような風格を持った、これから始まるストーリーに思いを馳せるかの様な1曲。
2.パラボラマン
70代のジャズファンクを感じる、ジャムセッションを切り取ったような短いインタールード。
3.ドレッドライダー
強烈に照りつける太陽のもと、大型のバイクに跨った男がだだっ広い道路をアクセル全開で走り抜けていくような疾走感を味わえる名曲。全パートが絡み合うファンキーグルーヴでうねり続け、彼らの最大の魅力とも言える抜群の演奏力を存分に味わえる1曲。三嶋”ラッコ”光博の叩く、脳天に突き抜けるスネアの鳴りをぜひ体感してほしい。
4.野蛮なローソク
大きくてシンプルで太くて固くて…セクシャルに聞こえる歌詞が印象的な、ゆったりと身を任せたいメロウチューン。
5.パラボラマン〜reprise〜
2曲目の続きと思われるインタールード。曲間に短いインストを挟んでいくヒップホップ的なセンスによって、次の曲が待ち遠しくなる、これはなかなかニクい仕掛けだ。
6.誰にも言えない
ジリジリと鳴る野太いファズベースと、チャカポコなワウギターが軸となるドス黒いファンクチューンは、THEATRE BROOK流のP-FUNKだろうか。
7.命の一発
シャープなカッティングから攻めていく、レニー・クラヴィッツを彷彿とさせるワイルドなロックチューン。
8.One Fine Morning
カナダのブラスロックバンドLIGHTHOUSEの名曲をカバー。THEATRE BROOKらしいダイナミックな仕上がり。佐藤タイジの力強いカッティングとテンションによってグングンと前進し、盛大にビルドアップしていく。原曲をはるか先まで越えんとする素晴らしいカバーだ。
9.あふれ出すばかり(Remix)
シングルとしてリリースされた楽曲のリミックスバージョン。原曲はヘヴィなファンクロックだったが、こちらはストリングスを効かせた悲壮感に満ちたバラードとなっている。
10.キャプテンパラボラ
ファットなブレイクビーツにファルセットボイスが乗るインストナンバー。
11.昨日よりちょっと
過去を振り返り後悔する男の心情を、ギターのアルペジオに乗せて訥々と歌い上げる。少しずつ前に進んでいるのだ、と自分に言い聞かせるような、弱さと強さの入り混じる名バラード。
12.DREAD SURFER 〜BACK SPIN
ファニーなサンプリングを細かく挟みながら展開するガレージロック。コミカルさが作品中の良いアクセントになっている。
13.ありったけの愛(Live Version)
THEATRE BROOKの代表曲として、現在でもファンからの絶大な人気を誇るナンバーをライブテイクで収録。空から地中深くまで、食物連鎖や人間愛をスピリチュアルに歌い上げる。強く、とソウルフルに連呼されるラストは感動的だ。
14.光の粒
夜の遊園地にいるような、ふわふわとドリーミーな浮遊感。作品中いちばんやわらかな印象を残す。次に迎えるラストに向かって一度、クールダウンさせてくれる。
15.無実の子
海鳥の鳴き声をバックに、ジプシー調にかき鳴らされるギターに誘われるフォークロアなナンバー。流木に腰掛け焚き火を囲むようなあたたかさと、波打ち際に立ちすくむような深い悲しみを行き来する。本編ラストを飾るにふさわしく、壮大で深い余韻を残してくれる。
まとめ
以上、荒々しい1曲目から安らぎと悲しみに打ちひしがれるラストまで、アルバム1枚を通して聴きたい、ジャパニーズロック珠玉の大名盤だ。現在でも人気の高い初期の名曲たちは、このアルバムで学ぶことができるだろう。
15曲というボリュームがありながらも、短いインストを挟むことによって最後まで飽きずに、あっという間に聴き終えてしまうのもポイント。
全体を覆う何かに祈りを捧げるかのようなスピリチュアルなムードは、護符を意味するアルバムタイトルを象徴しているかのうようだ。
若き日の佐藤タイジによる無骨で無鉄砲な、それでいて繊細な、ありったけの愛をあなたにも感じ取って欲しい。