村上春樹のおすすめ小説10選。全作品読んだからこそ分かる本当のおすすめを紹介
ノーベル文学賞のノミネート常連で世界的な人気を誇る作家、村上春樹。
「いつもパスタを茹でている」「比喩表現が独特」など、読んだことない人にも多くのイメージを持たれてる作家だと思います。
好き嫌い分かれるかと思いますが、かくいう筆者は村上春樹の小説は高校時代に全て読破する程ハマった作家の1人です。
ここからは村上春樹のおすすめ作品をランキング形式で10位まで紹介し、村上春樹の小説の読み方や特徴も合わせて紹介していきます。是非参考にしてみてください!
村上春樹とは
1979年の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞しデビューしています。
この小説は第1作目の長編小説で、バーを経営していた村上春樹が29歳で書き上げたもので、いきなりデビューするほどの才能を感じさせられる一冊です。
また、受賞こそしていませんが、16回ノーベル文学賞にノミネートされていて、世界的にも評価の高い作家です。
村上春樹のおすすめ小説ランキング10選
第1位:海辺のカフカ
主人公の田村カフカは「世界で1番タフな15歳になる」と決意して、15歳の誕生日に家を出て、高松の図書館で暮らすようになります。
これは父親とも折り合いがつかず、「お前はいつかその手で父親を殺し、いつか母親と交わることになる。そして6歳年上の姉といつか交わることになるだろう。」なんて予言をされたことがきっかけでした。
ちなみにこの予言はギリシア悲劇のエディプス王の物語に出てくる予言になぞらえたものになっています。
主人公のそばにいる「カラスと呼ばれる少年」や知的障害で猫と会話ができるナカタさん、そして佐伯さんという母親の生まれ変わりに思える女性との出会いを通して、切実に生きた青年の物語が描かれている名作です。
第2位:1Q84
1Q84年ーー私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。
Qはqestion mark のQ だ。疑問を背負ったもの。(本文より引用)
天吾と青豆という10歳の時に離れ離れになった2人の世界が大人になってから徐々に交わっていく長編小説1Q84。
天吾は予備校の講師をしながら小説の仕事を引き受け、青豆はスポーツのインストラクターをしながら女性をDVで苦しめる男性を暗殺する仕事を引き受けています。
2人は1984年に月が2つ存在するそれまで自分たちのいた世界とは異なる世界に迷い込み、その世界を「1Q84」と名付けたのでした。
だんだん話が繋がっていく面白さや登場人物たちのユニークさはもちろん、SF要素やミステリー要素もあり、読み応え十分の作品です。
第3位:ノルウェイの森
主人公・ワタナベは高校時代に親友のキズキを自殺で亡くし、東京で大学生活を送っていました。
そしてキズキの恋人だった直子と再会し、やがて恋人になりますが、姿を消してしまうのでした。
そんな中、ワタナベは大学で知り合った緑という奔放な性格の明るい女の子とも仲良くなっていきます。
この小説のポイントは直子と緑という性格が対照的な女性に揺れる主人公と、もっと言えば過去に生きる女性(直子)と現実に生きる女性(緑)の中で揺れることで、どう生きるのかが問われているということです。
心に傷を負い、どこか影を抱えて生きる登場人物の生き様や哲学が痛々しくも心に刺さる一冊です。
第4位:アフターダーク
恐らく村上春樹の長編(中編)小説の中で最も抽象度が高く難解な作品です。
あらすじは、2ヶ月間眠り続けているエリという女性を取り巻く人間関係を視点を変えながら追っていくというものになっています。
映画的な小説で、視点が固定カメラのように定まっていて場所によって章が変わっていくのが面白いです。
彼女はなぜ眠るようになってしまったのか、何が彼女を「損なってしまった」のかを考えながら読み進めていくうちに、何が誰かの心を決定的に傷付けるのかというのがいかに複雑かを考えさせられます。
また、タカハシという青年が出てくるのですが彼の言葉がどことなく胡散臭く、どこまで本当のことを言っていてどこまでが嘘なのか分からないというところもこの話の面白いポイントになっています。
第5位:レキシントンの幽霊
ケイシーという友人から古い屋敷の留守番を任された主人公が幽霊を見るという不思議な体験をするところから物語は始まります。
そこから人の生死の境界を超えた体験を通して、現実と非現実、そして生と死について考えさせられる話になっています。
恋人を亡くしたケイシーが終盤で主人公に言う「自分が死んでも自分のために深く眠ってくれる人はいない」というセリフが非常に印象的です。
「アフターダーク」でも出てきたように、眠るという行為は現実から目を背け別の世界へ意識を飛ばす行為です。
自分の喪失によって現実に戻るのをやめてしまいたくなるほど自分のことを想ってくれる人はもういないんだ、という意味でこのセリフは使われているのが非常に切なくて印象的です。
また、「ある種の物事は別の形をとるんだ、別の形をとらずにはいられないんだ。」というセリフが出てきて、誰かの思いは必ず何らかのメタファーとなって現れるという村上春樹の考え方が最も綺麗にまとまった小説のように感じます。
第6位:世界の終わりとハードボイルドワンダーランド
「海辺のカフカ」や「1Q84」と同様、二つの世界の物語が交互に展開される形で進んでいく長編小説。
一角獣を眺めながら「世界の終わり」で暮らす僕と、「計算士」をしている「私」がいる「ハードボイルドワンダーランド」。
「世界の終わり」では「影」は引き剥がされ、何もかもが決められている「完全な世界」です。
一方で「ワードボイルドワンダーランド」は理不尽なことに振り回される現実的な世界です。
村上春樹の小説にある程度共通したテーマですが、端的に言うと現実と非現実の間で主人公がどう生きることを選ぶのかが問われているお話です。
ユニークな設定ながら人生の生き方や「想像の世界」との向き合い方について再考させられる作品になっています。
第7位:神の子どもたちはみな踊る
「阪神淡路大震災」のことを念頭に置いて書かれた短編集「神の子どもたちはみな踊る」
震災の後、登場人物たちの生活に起こる変化を描いた作品集になっています。
直接震災の被害を受けていなくても、大なり小なり日常の中に影響はあり、それによって登場人物たちの選択が変わっていった後の物語を描いているように感じます。
個人的に一番好きな短編は「蜂蜜パイ」で、主人公の淳平、高槻、沙夜子の3人組の話です。
淳平は沙夜子のことが好きでしたが、ずっと告白できないままいるうちに高槻と沙夜子が付き合ってしまいます。
しかし、3人の友人としての関係は続き、新聞記者になり高槻の帰りが遅い夜には2人は電話をして好きな本の話などをしています。
そんな中震災が起こり、高槻と沙夜子は離婚し、3人の関係性も変わっていきます。
自分の身に直接降りかかったことだけではなく、それが遠い出来事でも自分の生活に何かしらの変化が生じているのを想像させられます。
第8位:騎士団長殺し
2017年発売の比較的新しい村上春樹の長編小説「騎士団長殺し」
発売当時はニュースでもかなり話題になっていたため、記憶に新しい方もいるかもしれません。
物語は肖像画の制作で生計を立てている主人公の僕が妻のユズから離婚を申し立てられるところから始まります。
ユズは他に恋人を作ってしまい、これ以上結婚生活を続けることはできないと言うのでした。
傷心した主人公はあてもなく放浪し、友人の雨田政彦から小田原の山荘を紹介されます。
その家の中で主人公は「騎士団長殺し」という1枚の絵画を発見し、そこから超常的な体験へと巻き込まれていきます。
現実的な孤独をしっかり描ききっている反面、「イデア」に人格が与えられているなどユニークな設定は健在で、評価は結構分かれていますが個人的には楽しめる作品でした。
第9位:ねじまき鳥クロニクル
「私はまだ十六だし、世の中のことをあまりよくは知らないけれど、でもこれだけは確信をもって断言できるわよ。もし私がペシミスティックだとしたら、ペシミスティックじゃない世の中の大人はみんな馬鹿よ」(本文より引用)
失業中の主人公の岡田亨(おかだとおる)は、妻のクミコと2人暮らしでした。
結婚生活は6年目を迎え順調でしたが、ある日飼っている猫が消えたことから、少しずつ2人の関係にすれ違いが生じてしまいます。
そしてクミコは失踪してしまい、主人公は妻を取り戻すためにあらゆる手を尽くします。
霊能力姉妹の加納マルタと加納クレタ、この作品の悪の象徴でもあり国会議員の綿谷昇、そして1Q84でも出てきた牛河という不気味な男も登場し、彼らと関わりながら妻の居場所を知ろうとします。
ノモンハン事件を背景にした複雑な伏線や展開も見所です。
第10位:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
主人公の多崎つくるは、高校時代一緒にいた4人の友達から突然絶縁されてしまいます。
その理由に全く心当たりがなく、自分の存在そのものが否定されたように感じたつくるは、死を考えるほどギリギリのところで生活をしていました。
そして36歳まで自分の好きな仕事をすることもでき、普通に生活を続けてきたつくるですが、付き合っている彼女の沙羅から「あなたに抱かれているとき、あなたはどこかよそにいるみたいに感じられた。もし私とあなたがこれからも真剣におつきあいをするなら、よく正体のわからない何かに間に入ってほしくない」と言われ、つくるは4人の友人たちに会いに行き、その理由を見つけにいきます。
村上春樹の話にしては珍しく、この話はファンタジー要素があまりなくシンプルなストーリーになっています。
主人公以外の登場人物には名前に色が入っていて、「自分だけが色彩を持っていない(秀でた特徴がない)」とつくるが考えているところもポイントです。
高校生の男女の5人という危ういバランスで成り立っている関係性と、心に傷を負った主人公が大人になってから再び過去と向かい直そうとする姿が描かれています。
村上春樹の小説の特徴
文体は平易だが内容は難解
村上春樹というと難解なイメージや、娯楽的な小説と違い純文学に近いイメージを持たれる方が多いと思います。
芥川賞にノミネートされてるので社会的には純文学の括りになるかと思いますが、内容は大衆文学に近く、文体自体は平易です。
とはいえ内容は抽象的な内容が多く、比喩や隠喩の表現にクセがあったり、現実と非現実の境界が曖昧になったりする話が多いので読みづらい印象があるのではないかと思います。
比喩表現
村上春樹の小説の特徴の一つに、比喩表現の独特さがあります。
例えば6作目の長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」には「文化的雪かき」という表現が出てきます。
「君は何か書く仕事をしてるそうだな」と牧村拓は言った。
「書くというほどのことじゃないですね」と僕は言った。「穴を埋める為の文章を提供してるだけのことです。何でもいいんです。字が書いてあればいいんです。でも誰かが書かなくてはならない。で、僕が書いているんです。雪かきと同じです。文化的雪かき」
「雪かき」と牧村拓は言った。そしてわきに置いたゴルフ・クラブにちらりと目をやった。「面白い表現だ」
「それはどうも」と僕は言った。(本文より引用)
文章を書くことを「文化的雪かき」と言っています。
このような比喩の独特さや、対話の中で使われる面白さを楽しむことができるのも村上春樹作品の一つの魅力です。
全ての物事は必ず何かの形になる(メタファー)
これは筆者自身が村上春樹の長編小説を読んで特に感じた部分です。
中学の教科書にも載っている短編「レキシントンの幽霊」では「ある種の物事は別の形をとるんだ、別の形をとらずにはいられないんだ。」というセリフが登場します。
また長編小説「海辺のカフカ」でも「万物はメタファーである」という言葉が登場します。
例えば思っているだけで言わないことも必ず小さな行動や言動に繋がっていたり、自分でも気が付いていない深い部分でさえ、必ず何かしらの形になっているということです。
この考え方はレキシントンの幽霊に限らず、村上春樹の小説の根底にある部分だと感じます。
登場人物が思っていることが何かしらのメタファーとなって現れるので、何度読み返しても発見があり、面白いと感じる部分です。
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