椎名林檎の本気で聴いて欲しいおすすめの名曲13選
1998年、19歳という若さでデビューシングル「幸福論」でデビューした椎名林檎。
鋭く独特な歌詞の世界とストレートなバンドサウンドから昭和歌謡的な楽曲、実験的な曲まで楽しむことができる唯一無二の音楽性で人気を博しました。
プロの音楽集団を引っ提げたバンド、東京事変としても活躍していることで知られています。
今回は椎名林檎のソロ名義の楽曲にスポットを当てて、語り継いでいきたい名曲を13選紹介します。
正しい街
椎名林檎のアルバムの中でも人気の高いデビューアルバム「無罪モラトリアム」の一曲目を飾る名曲「正しい街」。
「正しい街」とは椎名林檎の地元、福岡のことで、ミュージシャンとして成功するために恋人と地元を残して上京するも「自分が置いてきたあの街(と恋人)こそ正しかったんじゃないか」と葛藤する曲になっています。
都会では冬の匂いも正しくない
百道浜も君も室見川もない
自然のない都会に対する安直な懐疑的な感情を抱いてしまうほど、自分の選択に対する罪悪感と後悔に押し潰されてしまいそうになっているのがこのフレーズに集約されています。
ギブス
椎名林檎の楽曲の中でも数少ないスローテンポのバラード曲。
「写真を撮られると自分が古くなうようで厭だ」という考え方や途中で出てくるカート・コバーンとコートニー・ラブの関係性に自分たちを重ねているところから、どことなく死や終わりを予感させるような雰囲気があります。
大事な人との関係性にはそんな終わりが未来に組み込まれているからこそ、今一緒にいたいと伝えるストレートなラブソングなのだと感じます。
don’t U θink?
i 罠 B wiθ U 此処に居て
ずっと ずっと ずっと
明日のことは判らない
だからぎゅっとしていてね
ぎゅっとしていてね ダーリン
幸福論
デビューシングル「幸福論」。
当時19歳にも関わらず、こんな風に誰かを愛せたら幸せだと理解しつつも、それは理想論なのだと割り切っているような諦観が伺える曲でもあります。
時の流れと空の色に
何も望みはしない様に
素顔で泣いて 笑う君に
エナジイを燃やすだけなのです
シングルバージョンと名盤「無罪モラトリアム」に収録されてる悦楽編ではバージョンが異なっていて、悦楽編の方がアップテンポのギターロックテイストになっています。個人的には悦楽編の方がおすすめです。
ここでキスして。
無罪モラトリアム収録曲の3rdシングル「ここでキスして。」
「十七に成ったばかりのあたしがそのまま生かされている」と椎名林檎自身も語っていて、女子高生のかわいらしくも力強く真っ直ぐな好きな人への想いが描かれています。
あたしは絶対あなたの前じゃ
さめざめ泣いたりしないでしょ
これはつまり常に自分が
アナーキーなあなたに似合う為
現代のシド・ヴィシャスに
手錠かけられるのは只あたしだけ
奔放な好きな人のことを「現代のシド・ヴィシャス(セックス・ピストルズのベーシスト)」と表現しているあたり、10代の彼女のセンスが伺えます。
メロウ
今までに紹介した曲の中だと少し知名度は落ちますが、熱量のあるギターと文学的な世界観が爆発している名曲です。
サイレンの音と不穏なアルペジオから始まるイントロから一気に引き込まれます。
蔑んでくれ
僕は何処までも真摯なのだ”至って普通さ”
いま群れ為す背中
お前が僕よりイッちゃっているのだ
狂っているーそうだろう?
前半で「お前はきっとナイフを使う僕に恐怖を覚える」というフレーズがあり、狂気的な愛情を歌っていることが分かります。
それも、何処までも真摯であろうとした結果、そうなってしまった1人の人間の支離滅裂でどうしようもない本音が紡がれているようで悲しいくらい引き込まれます。
歌舞伎町の女王
「無罪モラトリアム」収録の椎名林檎の2ndシングル「歌舞伎町の女王」。
新宿の歓楽街をテーマに、人間の栄枯盛衰に対する椎名林檎の価値観を知れる一曲になっています。
十五になったあたしを置いて女王は消えた
毎週金曜日に来ていた男と暮らすのだろう
“一度栄し者でも必ずや衰えゆく”
その意味を知る時を迎え 足を踏み入れたは歓楽街
女に成ったあたしが売るのは自分だけで
同情を欲した時に全てを失うだろう
「一度栄し者でも必ずや衰えゆく」「同情を欲した時に全てを失うだろう」というフレーズは、男と暮らすことを選んで落ちぶれてしまった歓楽街の母親を横目に悟った心情になっています。
丸の内サディスティック
「無罪モラトリアム」収録曲で、シングルカットされていないものの知名度の高い代表曲の一つです。
東京で燻っている主人公が抱く音楽への純粋な気持ちと、ベンジー(Blankey Jet Cityのボーカル、浅井健一の愛称)への憧れが詰まっています。
将来僧になって結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー あたしをグレッチで殴って
ジャスのようなリズムと、「Just The Two of Us進行」と呼ばれる色気のあるコード進行、そして「ピザ屋の彼女になってみたい」「終電で帰るってば池袋」のような癖になるフレーズの数々が心地良い楽曲です。
ありあまる富
椎名林檎の11枚目シングル「ありあまる富」
アコースティックギターを主軸にミドルテンポで展開していくシンプルなテイストの楽曲です。
MVでは札束や家具が爆発していて、「本当の豊かさとは何か」を説いている楽曲になっています。
もしも彼らが君の何かを盗んだとして
それはくだらないものだよ
返して貰うまでもない筈
何故なら価値は生命に従って付いている
世界には金銭や地位を求める人で溢れかえっていますが、そういう結果はくだらないものであり、価値は人間そのものに付随して存在するのだと言っています。
例えば、手にした金銭を全て盗まれたとしても、その金銭を手に入れるために必死に貯金をしたり、スキルアップして勉強をした努力を誰かが盗むことはできません。
今挙げたのは一例ですが、こういった盗むことができないものこそに価値があるという考え方は、初めて聞いた時ハッとさせられました。
最後は「ほらね 君には富が溢れている」という言葉で締めくくられますが、形のない喜びなどの感情は不可侵なものであり、そういう豊さをたくさん持っているのだとリスナーに説いてくれているような優しさを感じます。
罪と罰
「勝訴ストリップ」収録の6枚目シングル「罪と罰」。
冒頭から荒れ果てた小部屋の中で大切な人の不在を嘆いているようなシーンが浮かび、苦しくなる曲です。
MVも高く評価されていて、椎名林檎が真っ二つに切られた1970年代に作られたベンツ(実際の椎名林檎の愛車)に乗って歌っている衝撃的な内容になっています。
歪んだ無情の遠き日も
セヴンスターの香り味わう如く季節を呼び起こす
あたしが望んだこと自体
矛盾を優に超えて
一番愛しいあなたの声迄 掠れさせていたのだろう
傷付けた相手にも関わらず、自分が求めてしまったことこそが矛盾であり罪だったのではという心情がこのフレーズに凝縮されています。
本能
勝訴ストリップに収録された4枚目シングル「本能」
ナース姿の椎名林檎がCGではなくガラスを実際に割っているMVも話題になりました。
平たく言えば女性の性衝動を歌った曲ですが、その裏にある寂しさや口約束の虚しさなどが曲全体に切ない影を落としているように感じられます。
終わりにはどうせ独りだし
此の際虚の真実を押し通して絶えてゆくのが良い
鋭い其の目線が好き
虚言症
勝訴ストリップの一曲目に収録されている楽曲「虚言症」
幸福論より先に実はできていた曲で、新聞で見た少女の飛び込み自殺に着想を得て作られたそうです。
線路上に寝転んでみたりしないで大丈夫
いま君の為に歌うことだって出来る
あたしは何時も何時もボロボロで生きる
気休めのようなフレーズが散りばめられたこの曲に対して「虚言症」というタイトルをつけるところが秀逸に感じます(元々のタイトルは「大丈夫」だったそう)。
「こんなことを言っても綺麗事で嘘つきだって思うよね」という聴き手側の気持ちに寄り添ってそういう余白を残したのではないかと個人的には思っています。
茎
3枚目アルバム「加爾基 精液 栗ノ花」に収録されている椎名林檎の8枚目シングル「茎」
後期の椎名林檎らしい和を感じるテイストと、妖艶な歌声を楽しむことができるバラードです。
歌詞は女性の儚さと美しさ、そして生命の力強さを描いたものになっているように感じます。
今日からは生えても芽吹いても仙人草
咲いても喜び過ぎないから
大事な生命 壱ツだけ
だうか持つて行かれませぬ様に
哭いたり惑つたり致しませぬ
立つたら弐度と倒れないから
何も要らない 壱ツだけ だうか 誰か 嗚呼
いろはにほへと
5thアルバム「日出処」に収録された13枚目のシングル「いろはにほへと」
東京事変が解散してからリリースされた初のシングルでもあります。
自然の摂理を描いていて、ここでも諸行無常的な人生観が伺えます。この曲もレトロな和テイストの楽曲です。
「青い空よ なぜ雲を抱えて走ってく→赤い空よ なぜ太陽なんて溶かしてく」「仮初めの彩度だけぢゃ厭なの→モノクロの濃度だけで好いの」のような言葉遊びも面白い楽曲になっています。
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