【名作】日本の純文学のおすすめ小説17選。一度は読んでおきたい名著を紹介
堅苦しくて難しい印象のある純文学。
とっつきづらいものの、人生を変えるような衝撃的な本に出会いたい、物事をじっくり考えたいと思う時には心を動かされる名作が多いのも事実です。
今回はそんな純文学の中から是非一度は読んで欲しいおすすめの小説を17選を紹介します。
素敵な本との出会いのきっかけにしていただけたら幸いです!
純文学とは
純文学とはSFやファンタジー小説などの大衆文学に対して娯楽性よりも芸術性に重きを置いた小説のことを指します。
文学賞で言うと、芥川賞は優れた純文学を書いた新人に贈られる賞であり、直木賞は優れた大衆小説を書いた無名もしくは新人に贈られる賞になっています。
ちなみに純文学というカテゴリーは、明治時代の「言文一致運動」後の作品を対象にしています。
ではここからは実際に純文学の名作を紹介していきます。
三島由紀夫「金閣寺」
金閣を焼かなければならぬ(本文抜粋)
1950年の金閣寺放火事件をモデルにした純文学の金字塔「金閣寺」
金閣の美しさに取り憑かれた溝口という少年が金閣を燃やすという行動に至るまでの話になっています。
溝口は容姿にも恵まれず、吃音持ちであり、劣等感や苦悩を抱えながら金閣にだけ美というものを見出すようになります。
少年だった彼が「私は歴史に於ける暴君の記述が好きであった」と語るのも印象的で、社会から疎外された人間が持つ攻撃的な思想の断片が生々しく描かれているように思います。
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川端康成「眠れる美女」
忘れるにまかせるということが、結局最も美しく思い出すということなんだ。(本文抜粋)
ノーベル文学賞受賞作家・川端康成の短編小説「眠れる美女」
ノーベル文学賞を受賞したことのある日本人は、2022年現在では大江健三郎と川端康成の2人しかいません。
川端康成と言えば「雪国」や「伊豆の踊り子」の方が馴染みがあるかと思いますが、個人的にその2つよりもこの「眠れる美女」が面白かったのでこっちを紹介します。
この話では、老人男性だけを相手にする秘密の宿に通うようになってしまう江口という老人を描いています。
その宿の部屋では薬か何かで眠らされた裸の娘がただ横になっていて、男性ではなくなった老人だけがその宿に通うことができます。
とにかく官能的で奇妙な設定なのですが、こんこんと眠り続ける娘を見ながら過去の恋人や母親のことを回想する老人の「死」の匂いのようなものが生々しく、不思議と取り憑かれてしまった一冊です。
太宰治「人間失格」
恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。(本文抜粋)
太宰治の代表作「人間失格」
太宰治はこの小説を書き始めてから1年も経たずにに愛人・山崎富栄と共に入水自殺し、38歳という若さでその生涯を閉じました。
主人公の大庭葉蔵は幼い頃から家族のことが理解できず、「道化」をして生きていこうと思うようになります。
天然な振りをしてわざと失敗して周囲に笑ってもらうことで愛されようとするのでした。
「人が不機嫌になる瞬間が何よりも怖い」と語る主人公は、自分が滑稽でも「道化」を続けていれば周囲に愛されると信じています。
行き過ぎた自意識と求愛でもある滑稽な「道化」は、大なり小なり誰もが普遍的に持っている性質でもあり、だからこそ現代でも愛される名作になっているように感じます。
夏目漱石「こころ」
おれは策略で勝っても人間としては負けたのだ。(本文抜粋)
1914年に発表され、現代文の教科書に掲載されていることも多い晩年期の名作「こころ」。
「先生」が語り手の「私」に対して親友を裏切ってしまった過去を告白するという構成になっています。
「先生」は、同居人で親友でもあるKが好きになってしまった「お嬢さん」についての相談を受けるようになります。
しかし、そんなKの相談に乗りながら「先生」はKを出し抜いて「お嬢さん」との結婚にこぎつけてしまうのでした。
それを知ったKは「先生」に対する文句は何も遺書に残さず黙って自殺してしまいます。
狡猾さと正しさ、罪悪感の間で揺れる人間の心理状態が繊細に描かれている名作です。
坂口安吾「白痴」
俺にもこの白痴のような心、幼い、そして素直な心が何より必要だったのだ。(本文抜粋)
1949年に出版された坂口安吾の代表作「白痴」
映画演出家の男がなぜか自分の家の押し入れに隠れていた白痴の女を家に匿うようになるという話です。
戦時中の特異なムードの中、理性も何も持たない感情だけの肉塊である「白痴の女」と冷静な主人公との奇妙な交流が描かれています。
特に印象的だったのは、東京大空襲を白痴の女となんとか逃げきった主人公が、その後いびきをかきながら眠る女を「豚のようだ」と喩えるところでした。
一緒に生命の危機を感じて逃げている時は「死ぬときは一緒」「俺から離れるな」のような言葉をかけていたにも関わらず、急に冷めた主人公の心情の変化がよく描かれています。
二葉亭四迷「浮雲」
言文一致体で書かれ、日本の近代小説の始まりとなったと教科書でよく紹介される作品「浮雲」
言文一致体とは、簡単に言うと話し言葉に近い形で書かれた文体のことなので、とっつきづらいイメージがあるかもしれませんが、意外と読みやすい小説です。
この話の主人公・内海文三は寄宿先で従姉妹のお勢に英語を教わるうちに彼女のことが好きになってしまい、何も手につかなくなって役所の仕事をクビになってしまいます。
そして、そんな要領の悪い主人公に対してお勢もお勢の母も彼に愛想を尽かすようになってしまうのでした。
ちなみに二葉亭四迷というペンネームは坪内逍遥の名前で「浮雲」を出版しようとした自分自身を「くたばってしまえ」と罵ったことから付けられたと言われています。
宮沢賢治「よだかの星」
「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。
灼けて死んでもかまいません。
私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。
どうか私を連れてって下さい。」(本文抜粋)
宮沢賢治の短編小説「よだかの星」
いじめられていた夜鷹という醜い鳥が死んで星になるという悲しい物語です。
この話の印象的だったところは、夜鷹は自分が羽虫を食べる時に自分が小さな生命を犠牲にしながら生きていることに悲しくなり、「こんなことをしながら生きていたくはない」と思う場面です。
弱肉強食や食物連鎖、権力に揉まれながら生きるよだかの姿は現代社会を生きる私たちにも心打つものがあります。
谷崎潤一郎「春琴抄」
「お師匠様、私はめしい(盲目)になりました。もう一生涯、お顔を見ることはござりません」(本文抜粋)
マゾヒズムや耽美主義という言葉で語られることの多い谷崎潤一郎。
春琴抄はそんな谷崎潤一郎の中編小説で、一言で言うと好きな(尊敬する)女性のために自分の目に針を刺して盲目になることを選ぶ男の話です。
容姿端麗で三味線の才能のあった春琴は9歳で失明しましたが、世話係の佐助がいました。
わがままな彼女の世話をすることが生きがいだった彼は、顔に火傷を負った春琴が「ただれた顔を見せたくない」と言うのを聞いて、自分の両目を針で失明させてしまいます。
恋愛的な好きというより、師弟愛のような感情を春琴に抱いているのもこの話の奥深さを出しているように思えます。
尾崎紅葉「金色夜叉」
1897年から読売新聞に連載され、人気を博していた尾崎紅葉の小説「金色夜叉」
この小説の魅力は雅文と呼ばれる文体なのですが、原文だと少し読むのが難解なため、読みやすさを求める方は現代語訳版から読んでみることをおすすめします。
物語の大筋は許嫁・お宮に裏切られた主人公・貫一が高利貸しとして悪徳な仕事に手を染めていくという内容です。
お宮は貫一と婚約していたにも関わらず、富山という富豪にアプローチされた時に心変わりして、結婚してしまうのでした。
愛か金かという普遍的なテーマに見られがちな今作ですが、本当に人を愛するとは何なのかが周囲の人との交流を通して貫一が探究してく話になっています。
永井荷風「濹東奇譚」
1937年に発表された永井荷風の小説「濹東奇譚(ぼくとうきだん)」
タイトルは「隅田川東岸の物語」を意味します。
小説家の主人公と娼婦お雪の関係性を描いた話で、2人の交流と別離の情緒やユーモアな会話を楽しむ内容になっています。
2人はふとしたきっかけでさよならも告げずに何となく疎遠になってしまうのですが、その一見冷めたような関係性にも魅力があります。
安部公房「砂の女」
罰がなければ、逃げるたのしみもない。(本文抜粋)
1962年に発売された安部公房の代表作「砂の女」
海外でも評価が高く、砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれている部落の一軒家に閉じ込められるという話になっています。
閉じ込められた理由はその部落が砂を常に掻き出さないと、埋もれてしまうためその作業をする人手を欲していたからということでした。
主人公は逃げ出そうと試みますが、灼熱の中でそんな情熱もだんだんと失くしていきます。
「たしかに労働には、行先の当てなしでも、なお逃げ去っていく時間を耐えさせる、人間のよりどころのようなものがあるようだ。」と主人公が思う場面があり、辛いことにも慣れて毎日耐えるように仕事をする現代の私たちにとっても、「労働とは何か」を再考させれる内容になっています。
田山花袋「蒲団」
日本で最初の「私小説」とも呼ばれていて、主人公は花袋自身がモデルになっていると言われています。
30過ぎの既婚者である時雄は小説家で、結婚生活の新鮮さもなくなり倦怠期を迎えています。
そんな中、芳子という19歳の女子大生が書生として弟子入りを志願してきたことをきっかけに時雄は彼女との不倫を妄想するようになって…という話です。
押入れにしまってあった芳子の蒲団と夜着を取り出して、においを嗅ぐという場面が有名になりました。
中年男の気持ち悪さ全開の小説ですが、そこに人間らしい生々しさや情けなさを感じることができます。
大江健三郎「死者の奢り」
自分があれらの死者たちから、はるかに遠くにいる、と満足して思った。(本文抜粋)
ノーベル文学賞受賞作家、大江健三郎のデビュー作「死者の奢り」
主人公の「僕」は大学医学部の事務室に行き、水槽に保存されている解剖用死体を新しい水槽に移しかえるというアルバイトを始めます。
意識のない死体を見て、完全な「物」のようだと「僕」は思い、自分が生きていることの実感を感じるようになるのでした。
しかし、たまたま出会ったギプスを体中にはめた男に励ます意味で笑顔で肩に手を置くと、怒りに満ちた目で睨まれてしまい、好意でやった行動が裏目に出てしまったことに傷付きます。
(死者ではない)人間の意識は人を傷つける不条理を持っているということを死体と対比させながら考えさせられる名作です。
井伏鱒二「山椒魚」
有名な小説なので、大きくなりすぎて岩屋から出られなくなってしまった山椒魚が主人公の話というのは何となく聞いたことあるかもしれません。
岩屋から出られなくなった山椒魚はある日、岩屋にやってきた蛙を岩屋の中に閉じ込めて、自分と同じ思いを誰かに味あわせようとします。
そしてそんな蛙は長い年月閉じ込められ死にそうになってしまうのでした。
最後に山椒魚が「お前はどう思っているのか」と尋ねると「今でもべつにお前のことをおこってはないんだ」と答えるところでこのお話は幕を閉じます。
蛙が自分の生命を奪われそうになっても「怒ってない」と答えたのはなぜなのか。寓話のようになっていて、考えさせられる部分の多い話になっています。
梶井基次郎「桜の樹の下には」
桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故なぜって、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。
この有名な書き出しから始まる梶井基次郎の短編小説「桜の樹の下には」
短編集「檸檬」の中に収録されています。
美しく咲く桜の樹を見ながらその裏にある惨劇を想像し、主人公である「俺」が読者に語りかけてくるような内容になっています。
主人公が「俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって来る。」と述べている箇所があり、そこを読むとなぜ桜の樹の下に死体を想像してしまうのか何となく分かるようになっています。
数ページほどしかない散文詩のように、親しみやすい口語で書かれているので読みやすいですが、内容は抽象度が高いです。
森鴎外「舞姫」
現代文の教科書に載っていることも多い、森鴎外の短編小説「舞姫」
ドイツでの恋愛体験を手記のような形で綴っていて、明治時代の文体で書かれているのでそのまま読むと少し難解かもしれません。
大筋は医学を学ぶためドイツに留学した主人公・豊太郎が美しくも不幸な踊り子・エリスと出会い、交流していくようになるという話です。
勉学一筋で秀才だともてはやされた豊太郎はヨーロッパの自由な風土と、エリスの存在の間で揺れ動くことになります。
同僚にエリスと関係を持っていることを告げ口されてしまい、豊太郎はエリスを諦めるか自分の出世コースをとるか、どちらか選ぶことを迫られるのですが、その時の豊太郎の選択と今の私たちの感覚を比べてみても面白いかもしれません。
小林多喜二「蟹工船」
プロレタリア文学として恐らく最も広く知られている作品「蟹工船」
プロレタリア文学とは労働者の過酷な現実をありありと書いた文学のことを指します。
「おい、地獄さ行ぐんだで!」という書き出しが有名なので聞いたことがある方も多いかもしれません。この一文もそんな労働者たちが働きに行くことを「地獄に行く」と言っていることが表れています。
蟹工船とは、名前の通り蟹の工船のことで、港の工場まで蟹を運ばず、船の中で蟹を加工して缶詰にできるようになっている船のことです。
そんな蟹工船の労働環境は非常に劣悪なもので、お金に困った乗組員たちは休日なしで毎日16時間以上もの超長時間労働、衛生的にも整っているとは言えない場所でした。
監督に歯向かうと拷問されるので、体調不良だろうが何だろうが乗組員たちは働きます。
お金がなく仕事を選べない人を相手に過酷な環境で仕事をさせ、上だけがその利益を搾取するという構図は程度の違いはあれど、現代にも根付く問題です。
「蟹工船」は、そんな資本主義社会の労働の本質を捉えた名作になっています。
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