グザヴィエ・ドラン「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」あらすじ感想 天才が描いたスターの苦悩

グザヴィエ・ドラン「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」あらすじ感想 天才が描いたスターの苦悩

華やかな芸能界の中で苦悩するスターと秘密の文通をする少年の物語。
「説明できない」という人間に対する絶望的な不信感を描きながらも、グザヴィエ・ドランのセンスがいまいち爆発しきらなかった作品

監督:グザヴィエ・ドラン

脚本:グザヴィエ・ドラン、ジェイコブ・ティアニー

音楽: ガブリエル・ヤレド

出演: キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ベン・シュネッツァー、ジェイコブ・トレンブレイ

 

Mommy」「たかが世界の終わり」などの作品で日本でも人気の高い監督、グザヴィエ・ドラン。

今作「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」はドラン監督の最新作で、スターにのぼりつめた俳優の苦悩や葛藤とそんなジョンに憧れる一人の少年が「秘密の文通」で繋がっていくという内容になっています。

「ゲーム・オブ・スローンズ」などで知られるキット・ハリントン、「レオン」や「ブラック・スワン」などで知られるナタリー・ポートマン、そして主人公の少年、ルパートには「ワンダー、君は太陽」でトリーチャーコリンズ症候群の少年を好演したジェイコブ・トレンブレイなどが出演しています。

この映画は、ドラン監督が8歳の頃に映画『タイタニック』に出演していたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという思い出に着想を得た作品でもあります。では早速、あらすじと感想を述べていきます(ネタバレしますので未鑑賞の方はご注意ください)

 

あらすじ

21歳のルパート・ターナー(ベン・シュネッツアー)はプラハで記者のオードリー(タンディ・ニュートン)からインタビューを受けていた。内容は2009年に29歳という若さで死んだ俳優ジョン・F・ドノヴァンについてルパートがまとめた本に関するもので、オードリーはその本を読んでないとルパートに言うが、インタビューは始まっていく。

(少年ルパート視点)
ルパートは母親1人に育てられた子供で、学校にもあまり馴染めていない少年だった。そんなルパートにとっての唯一の楽しみは俳優のジョン・F・ドノヴァンで、彼が出るドラマ、バラエティに熱中することだった。孤独を感じていたルパートにとってはテレビの中のジョンが世界そのものだったと、大人になったルパートは振り返る。

あまりにもジョンが好きだったため、ジョンに手紙を書くルパート。そしてジョンから返事が来て、手紙のやりとりが始まったのだと言う。当時ルパートは「誰かに言いふらしたい」という気持ちより「この楽しみを誰にも奪われたくない」という気持ちの方が強く、誰にも、母親にさえこの文通のことを言わなかった。

(ジョン視点:手紙の内容)
ジョンはエイミーという女性とニューヨークで活動しており、芸能活動に追われる華やかで多忙な日々を送っていた。

(少年ルパート視点)
ルパートは同級生からいじめられていた。ジョンのことが好きだったため、女みたいだとからかわれ、雨の中殴られて気を失ってしまっていた。

その後母親のサム(ナタリー・ポートマン)が到着するも心配する母親といじめられた屈辱感でいっぱいのルパートはすれ違ってしまう。

(ジョン視点:手紙の内容)
ジョンがエイミーと共に実家に戻ると兄弟や母親が温かく迎えてくれた。しかし母グレース(スーザン・サランドン)が喜びのあまり酒を飲みすぎてしまい、だらしなく見えてしまったジョンは母親と口論になってしまう。

実家を後にしたジョンはその足でゲイバーに向かい、そこで男と出会ってセックスをする。

(青年ルパート視点:インタビュー)
ルパートは当時を振り返り、自分とジョンは全く違う場所にいながら同性愛者だったことや母親とうまくいってなかったことなど、抱えている問題が似ていたのだと語る。

(少年ルパート視点)
ジョンはクラスでジョンとの文通をプレゼンすることにする。手紙を送ったら返事が来てずっと文通していたと言うと、クラスメートたちは嘘だと馬鹿にし、ルパートがゲイだからだとからかう。

先生にその後呼び出されたルパートは「プレゼンの内容は素晴らしかったけど、作り話ではだめ」だと言われてしまう。信じてもらえないルパートは自分のカバンの中のジョンとの手紙を出そうとするが、それはルパートをいじめていた同級生たちに奪われていた。

手紙を奪われたルパートは取り返すために盗んだクラスメートの家にドアのガラスを壊して侵入する。しかし家の中にはクラスメートの母親がいたため、ルパートは警察を呼ばれてしまう。

サムがルパートを引き取りにくるが、手紙のことをなぜ黙っていたのかなど話し合っていくうちに口論になってしまう。サムはルパートのことを信じきれず「お願いだから本当のことを話して」と言うが、ルパートは本当だと言い張り平行線。しかし、自宅の前にはもうすでにジョンと少年の奇妙な文通をかぎつけたメディアが殺到していた。

(ジョン視点:手紙の内容)
ジョンはある日、男性と関係を持っていたことや、少年との文通のうわさが出回っていることを話題にされ、一人の男性を殴ってしまう。

(少年ルパート視点)
ジョンが文通のことを否定したことで、ルパートはひどく傷付く。部屋に貼ってあったジョンのポスターもびりびりに破いて捨ててしまった。

ある日、ルパートは学校に行かず書き置きを残したままロンドンへ念願だった子役のオーディションを受けに行ってしまう。その書き置きには上手くいかないながらも必死に頑張っているサムを母親として尊敬しているということも書いてあった。

サムは急いでロンドンへと向かう。大雨の中、たった一人でロンドンの町を歩くルパートをサムはなんとか見つけ出し再会する。

(ジョン視点:手紙の内容)
ジョンは自分がかつて関係を持っていたウィルに会いに行く。そこには母親もおり、ジョンは家に入れてもらえない。「君のことは好きだけど」とウィルは話す。「恥ずかしいのか」とジョンが聞くと「恥じているのは君の方だ」とウィルは言う。結局そのままジョンはその場を去った。

(青年ルパート視点:インタビュー)
このあとジョンから手紙がしばらくこなくなり、ニューヨークに母親と引っ越したとオードリーに話す。

(ジョン視点:手紙の内容)
悩みながら手紙を書くジョンのもとに老人が現れる。老人は「孫がファンなんだ」と他愛もないエピソードをしてくれたが、何かに悩んでいる様子のジョンを見て「話してごらん」と言ってくれる。しかし、ジョンは自分の悩みに関して要領を得ない説明しかできないまま終わってしまうのだった。

(青年ルパート視点:インタビュー)
それからジョンから最後の手紙が来たとオードリーに話す。

(少年ルパート視点)
ルパートとサムがニューヨークのホテルにいると、ルパートの入浴中に部屋に手紙が届く。サムはそれがジョンからのものではないかと思い、迷ったが、先に空けて内容を読んでしまう。

そこには自分の人生のこと、そして「ただ眠って人生をやり直せたら」という心情が吐露されていた。

(青年ルパート視点:インタビュー)
「ジョンが自殺だったのかは分からない」とルパートはオードリーに話す。
インタビューを終えたルパートは迎えに来た恋人の男性と共にバイクに乗って去って行った。



感想

自分はグザヴィエ・ドランという監督は本当に好きで全作品何回も見直してるくらい好きなんだけど、この作品はお世辞にも「やっぱりグザヴィエ・ドランは最高!」とは言えない作品だった。あくまで個人の感想だけど、どこが微妙だと感じどういうものが観たかったのかをここからは分析して書いていこうと思う。

微妙だった点

1. 構成が複雑すぎる

この映画は大きく3つのパートに別れている。1.少年ルパート視点の物語2.青年ルパートのインタビュー場面、3.手紙の内容に沿ったジョン視点の話という感じでそれぞれが入り組んだ構成で展開されていくんだけど、これがまとまりがなく感じた理由だと思う。そしてこの構成によってジョン視点の話が手紙の内容をルパートが想像した物語なのか、手紙の内容に即したジョンの事実なのかが分かりにくい。

2. 過去作品の焼き増し感

嫌な言い方なのは承知だけど、率直な感想を言うならこれがまず初めに思ったことだった。「母親との衝突(口論)」「LGBTとしての葛藤」はドランが映画の中でずっと描いているテーマだけど、今回「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」で描かれていたそのテーマは新鮮味がなく、人を変えて同じことをやっているだけのように感じてしまった。

良かった点

1. 不完全な母親

これはこの作品に限ったことではないけど、グザヴィエ・ドランは子供に対しての許せないことに葛藤しながらも、理解しようと愛情をもって奮闘している姿を描くのが上手い。「良い母親」とか「悪い母親」とかではくくり切れない人間味を出しているのがすごく心に残る。

2. 言葉にできない苦悩

ジョンがウィルとの別れ話をするときも、本当に唐突なタイミングでたったひとこと「I can’t」と言うだけであり、現実の世界ではジョンは自分の悩みや抱えてる問題を誰かに話すということが本当にできなかったのだと思う。そしてだからこそ、ジョンは手紙で全く自分の人生とは無関係の世界にいる少年に悩みを書き綴るという方法を選んだように感じる。

最後の最後、「話を聞こう」と手を差し伸べてくれた老人にもジョンは何の説明もすることができない。ジョンを苦しめていたのは何よりもこの「説明できない」という人間に対する絶望的なまでの不信感だったと思う。そういう姿が少ないシーンの中でもかなり重苦しく響いてきて印象的だった。

3. 演出

グザヴィエ・ドラン独特のポップソングの使い方やクラブ→セックスのあのカラフルで儚い演出が観れたことはやっぱり良かったと思う。今回はアデルやGreen Dayなどの楽曲が流れるけど、ジョンが全力でGreen Dayの「Jesus Of Suburbia~」を歌うところは危うさが詰まってて良かった。

こういう作品にして欲しかった

ここからは完全に1ドランファンとしての偏見による持論になってしまうんだけど、自分の中でグザヴィエ・ドランは「普遍的な出来事を抽象化せずに描ける監督」なので、今回は自分にとってのスターを喪失した少年ルパートの人生の変化みたいなものにフォーカスして欲しかった気がする。上でも触れたけどこの作品はジョンのパートがルパートによる想像なのか、手紙の内容と関係のある事実を単に描いているのかが分かりづらいので、もっと「ルパートから見たジョン」というのを強調して、「ジョンはきっとこんな人物だと想像してた」というテイストにしてほしかった。それでそんなルパート少年にとって「世界そのもの」だったジョンの喪失はその後の学校生活や人生にどう影響するのか、みたいな内容。それかジョンをもうほとんど登場させずに観客が一体どんな人だったのか想像させるとか。今作は事実と想像世界の狭間で複雑かつ中途半端だった。



まとめ

「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」はパートを3つに分けたせいで視点がごちゃごちゃして、肝心のルパートから見たジョンの人生もいたいなものがぼやけてしまった作品だったと思う。自分にとってのグザヴィエ・ドラン作品のベストが「たかが世界の終わり」なので、期待するものが違ったのかもしれないけど、どこか過去作品の焼き増し感が強く新鮮味を感じることができなかった。要所要所でグザヴィエ・ドランのセンスの良さが光ってはいたものの、秋に公開される新作ではもっとそのセンスを爆発させてくれたら嬉しい。

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